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小堀將三

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小堀將三(こぼりしょうぞう) / マンション管理士

マンション管理士事務所JU

コラム

福岡市内マンションの傾斜問題(2)

2020年5月4日 公開 / 2021年2月27日更新

テーマ:建築関連

コラムカテゴリ:住宅・建物

 福岡市内のマンションで起きている傾斜問題の続きです。「柱・梁接合部の検討」のお話をさせていただきましたが、インタビューに応じたこのマンション構造設計者は、日本建築学会の鉄筋コンクリート造構造計算基準には規定されている「柱・梁接合部の検討」が、本当に必要なのかどうかを法的に検討すべきだと、また、実際に福岡県が「検討の必要ない」という見解を出しているのであれば、規定を撤廃すべきであるとも言っています。現実的には、この基準をクリアーするためには、躯体を相当に大きくする必要がある為、建築主にとっては費用が嵩み負担となるようで、このことも「柱・梁接合部の検討」がなされていない原因かもしれません。
 この構造設計者は、またこのようなことも言っています。「検討しなければならなかったことを、建築確認審査において指摘しなかった行政側のミスをもみ消したいから、行政側は接合部の検討をしていなくても“適法”と言わざるを得ないです。これは、法治国家の崩壊であると思います。このようなことであれば、建築確認制度そのものを廃止した方が良いのかもしれません。」と。
 このマンションは、竣工から既に25年以上経っていますので、時効や除斥期間などで、提訴しても非常に難しく、たとえ20年以内であっても建築確認や完了検査を受けていると主張されれば、裁判所もそれ以上は追及しないようです。
 東京都豊洲市場における不適切な構造特性係数を採用した問題においても、東京都は設計者を擁護し、東京地裁まで東京都に忖度して一度も実質的な審理に入らないまま結審しようとしたそうで、このような状況を見ると、我が国は「加害者ファースト」だとも述べており、被害者側が泣き寝入りするケースが多いということです。驚いたことに、このマンションを施工した若築建設は海洋土木を得意としている会社で、マンションの施工は、このマンションが初めてだったそうです。また、もう一つの施工会社である九鉄工業も、売り上げの半分以上が土木工事だそうで、マンションの施工に不慣れであったようです。このマンションの販売会社は現在も分譲を続けているのであれば、不誠実なマンション業者を世間に知らせた方が良いと、裁判所が「加害者ファースト」であるのならば、“世論”という法廷で戦うしかないと、この構造設計者は言っています。
 横浜市のマンション(パークシティLaLa横浜)の傾斜問題の時に、連日テレビで報道されていたことを考えますと、この福岡市のマンションの傾斜問題についての報道が非常に少ないように思います。コロナウイルスについての報道が精一杯で、取り扱う余裕がないのかもしれません。横浜市のマンションの場合は、次々と発覚したデーターの偽装や改ざん問題などが連日報道されていたため、マンションにお住まいの方が多く見ておられて、管理組合様も、自分のマンションは大丈夫かと管理会社に確認させていたのを覚えています。
 パークシティLaLa横浜の売主は三井不動産レジデンシャル、元請施工は三井住友建設、杭打ち施工の一次下請けが日立ハイテクノロジーズ、二次下請けが旭化成建材でした。これら業者の管理組合に対する対応を業界が非常に注目していたこと、世論が関心を持っていたことで、かなり早い段階で三井不動産は全4棟の建替えの打診を行っています。そして、2016年9月19日に全棟の建て替えが決議されました。建替えにあたって、三井不動産は住民の皆様に対して非常に手厚い補償を用意しています。仮住まいの家賃は上限が1坪当たり1万2000円、引っ越し費用は実費、その他諸経費として40万円、そして慰謝料として全戸一律300万円の支給です。
 
 建て替えは2018年6月に着工され、戸数は以前と同じ705戸ですが、棟数は4棟から9棟になるようです。ネットでアップされている動画を見てみますと、昨年末ぐらいには骨組みがかなり見えるようになってきています。

 パークシティLaLa横浜建替え動画一覧

 順調に進めば今年末には完成する予定ですが、今、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、工事を休止している建設会社が相次いでいる状況ですので、本当に予定通りに完成されるのかが心配です。今年中に完成することを見越して立てた来年1月からの生活設計が大幅に狂ってしまう可能性も出てくるかもしれません。
 まさかこんな生活を強いられるとは、パークシティLaLa横浜を購入されたときには誰一人思っていなかったことです。当のパークシティLaLa横浜の区分所有者の皆様にとっては、建て替えまでの道のりはとても長かったと思いますが、責任のなすりあいで時間を要することも考えられました(現段階でも責任の所在が明確ではありません。)ので、ある意味では建て替えまでの時間は早かったかもしれません。
 このような事は2度と繰り返されてはならないはずですが、今回また福岡市のマンションで起こっています。事の発端は横浜市の傾斜問題が発覚した2015年よりもっと以前の段階でのドアの開閉不良ですので、それから数えますと既に23年ぐらいたっています。新型コロナウイルス感染問題も非常に重要であることは百も承知ですが、福岡市内のマンションの傾斜問題について“世論”という法廷が開かれるように、横浜市の傾斜問題の時のように大きく取り上げて報道していただければと思います。

    福岡市内マンションの傾斜問題(1)
    福岡市内マンションの傾斜問題(3)

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