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杉浦直樹

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コラム

曲がり角にきた外国人技能実習制度

経営戦略

2018年7月20日



昨今、外国人技能実習制度に関して様々な問題が表出してきたというのは多くの方が認識されていることです。受け入れ企業側の問題から、労働基準法を無視したような労働を強いたり、また送り出し側にも研修費の名のもとに多額の借金で縛りつけたりするなど、本来発展途上国の産業人材を育成していくための国際貢献の主旨が大きくねじ曲げられていました。その結果、年間数千名にも上る失踪者が出たり、国際機関からも家族帯同も認めない現代の奴隷制度とまで言われたことにより、国としても重い腰を上げざるを得ず、昨年より技能実習法が成立しました。今まで以上に制度を正常に運用するように適正化に向けて管理が厳しくなったのです。またこの厳格な管理を実施するために、新たに「外国人技能実習機構」という天下り先ともいえる政府機関が設立されました。

適性化に向けて法律が施行されて約9か月が過ぎましたが、最近中小企業の現場の声を聞くたびに、この法律によって制度そのものが大きな曲がり角に来たような印象を強く持つようになりました。

国の規制改革の経緯を見てもわかりますが、役所が組織や権限を拡大していくとまずろくなことはありません。規制緩和どころか今回の技能実習法は規制強化そのものです。技能実習制度の制度疲労と社会環境の変化によっ、規制を強化しないと国際問題や労働環境の問題がさらに深刻化するのは間違いないところであったと思いますが、ただ役所は現場からの意見が届かないところにいて、机上であれこれ管理強化することが正しいと思いこんだ仕事をしがちです。その結果、今どういう状況になっているのでしょうか。

建て前と本音が交錯する技能実習制度


技能実習制度には明確な目的があります。あくまで発展途上国や地域に技能等の移転を図り、その経済発展を担う「ヒトづくり」に協力する国際貢献の重要な役割です。しかし、実際技能実習を受け入れる日本企業や団体側には、労働力の補完として当制度による外国人材を使いたいという本音があります。中には実習とは名ばかりで低賃金で働かせるだけの企業もあったり、実習計画すら満足に作ることもできず、実習認可範囲を無視して原発事故の除染作業に従事させていたところもあったのです。いわば本音と建て前が交錯している制度であり、そうはさせじと国は本来の目的に合わせて法律を施行して管理を相当厳しくしました。しかも、その管理強化を図るために、組合などの受け入れ監理団体にその責任を負わせ、細かく研修実施先のモニタリングや報告書の提出、実習生との定期面談など、以前に比べて管理業務が相当拡大しています。

その結果どうなったでしょうか。確かに実習生に対する労働環境の改善には効果が出ているようです。一部の繊維業界や水産農業関連以外ではほぼ過酷な労働条件は縮小しています。しかし、一方で外国人実習生の労働コストは急上昇しているのです。当然労働基準法に基づく最低賃金以上の給料や残業代を保証し、職場環境の整備を改善していきますと一人あたりの人件費は上昇します。これは当然といえば当然なのですが、中小企業の経営者の立場から見れば、管理強化によって膨大な事務処理量が増え、相当事務管理コストも上がってしまい、実習生を採用し監理団体などに支払う管理費、渡航費などを負担することを考えると、決して外国人技能実習生を使うコスト面のメリットはほとんどなくなっています。しかも、せっかく仕事を覚えたもらっても、最大3年なり5年で帰国するので、社内での技能ノウハウの継承には頼れない人材です。本音のところでは、もし日本人が採用できるのであればそれにこしたことはない。でもやむを得ず当面の労働不足を補完する意味で技能実習生を使う以外に方法がないというものです。

実習生そのものも雇えなくなる時代へ


やむを得ず外国人技能実習生を使っている中小企業側の本音がある一方、移民制度にはつなげたくない国側の本音がある中、外国人実習生自身としての本音でもある出稼ぎという動機自体大きく揺らいできています。

アジア諸国でも経済成長や少子高齢化が進んでいきます。特に台湾や韓国でも、ワーカーレベルの労働力供給は低下し、労働力需要は増大しています。高度人材だけでなく単純労働者についても争奪戦が始まっていることにも目を向けなければ、実習生ならいつでも来てくれる時代は過ぎ去ろうとしています。日本の技能実習制度は最長就労期間が短く、初期費用も高いのが実態です。円安や賃金格差の縮小も進み、日本はもはや魅力的な出稼ぎ先ではなくなりつつあります。中長期的には技能実習制度による外国人労働者の受け入れ拡大は困難になるのは必定です。

今、中小企業のニーズは実習生から高度人材へシフト


ワーカーレベルの労働力不足は深刻ではありますが、中小企業にとってさらに厳しい問題が事業承継問題です。経営者の承継もさることながら、人が雇えなくなることによる現場での技能承継が先細って行くことの方が大変です。今の技能実習制度では、3年なり5年なりで帰国してしまうため、技能承継には全く役に立ちません。実際、多くの企業から実習生より高度人材である外国人エンジニアを採用したいので紹介してもらえないかとの相談を多く受けるようになってきました。就労許可の問題はありますが、いくつかの条件をクリアすることで、合法的に技能承継を主眼として高度人材を受け入れたいというニーズは今後ますます増大していくでしょう、

今後技能実習制度は、管理を強化すればするほど、企業としても使いづらいものとなり、もう労働集約部分は委託生産などで海外に出すことも視野にしていくこと考えているところが増えています。企業にとってはいつ労働環境の問題でやり玉にあがられるかもわからないリスクがあるうえに、決して人件費は低くはなく、日々労務管理で頭を悩まされるばかり。しかも管理書類がどんどん分厚くかつややこしくなり、制度として急激にメリットがなくなってきているので、もう技能実習生を雇うつもりがないという声もちらほらと聞こえてきます。実習生の労務管理が社会問題化するのを防止するために作った技能実習法やそれに伴う新しい管理機構による事細かな現場への介入などで、制度を使う意味がなくしてしまうのは本末転倒になっています。本来は国際貢献の主旨であることを踏まえると、企業が労働力として使いづらいというのは、国や役所からすれば全く筋違いと思えてしまいます。しかし、中小企業の人不足の深刻さが本当にわかっていて、やむを得ず外国人技能実習生という労働力に頼らざるをえない実態をどう考えるのか、今後真剣に移民政策に踏み切らないと、少子化が加速する日本の産業界がこのままでは座して死を待つようなことにならないことを祈るばかりです。

この記事を書いたプロ

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