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杉浦直樹

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杉浦直樹(すぎうらなおき)

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コラム

ビジネスプラン研修では飲食店業界は絶好の題材

経営戦略

2018年5月1日



JICAのODAの一環として実施しているベトナム人経営者向け研修で、ビジネスプランの講師を担当して5年目になりますが、その研修では実践ワークショップとしてチームごとに分かれて仮想企業のビジネスプラン作成を行ってもらっています。実質2日間ほどかけて行います。各チームが新規事業に取り組むにあたり、出資者や金融機関に資金を出してもらうためプレゼンテーションを行うことを想定しています。そのプレゼンには実際に出資してもらえるだけの納得性のあるものなのか、今まで勉強してきた企業理念やビジョン、環境分析から事業ドメインの設定、そして競争戦略から財務、マーケティング戦略全体を包含し、最終的にきちんと投資回収ができるのか、5年というスパンで経営計画を作ってもらう内容です。あらゆる経営戦略の要素を組み込まなければならないので非常に濃い内容となっています。

実際の研修では4チームに分かれて行いますが、それぞれ業界の異なる事業で計画を立案してもらいます。参加する経営者の多くは裾野産業であるメーカーからですが、あえて4チームのうち、3チームはメーカー以外の業界で挑戦してもらっています。それは経営観の視野を広げる意味もありますが、特に研修として意義深い業界は「飲食業界」です。レストランでも結構ですし、CAFEでも構わないので自由に取り組んでもらっています。

飲食店業界はあらゆる経営のエッセンスが凝縮している


それではなぜ飲食業界が研修で好事例になると考えているかについてご説明したいと思います。一般に飲食店の事業は参入障壁が非常に低いものです。脱サラで新たに事業をやりたいと参入される人の多くが飲食業界です。もともと「パン屋さんにあこがれていた」「ラーメンを食べ歩くのが好きで、自分が納得するおいしいラーメンを提供したい」とか、「料理するのが好き」、「開業資金も退職金で何とかなりそう」・・・など、比較的安易に思いだけで事業を始められそうということのようです。

ところが飲食店というのは、経営的には非常に厳しく、経営能力がない人では生き残るのが難しい事業です。実際、皆さんも町を歩いていて感じられると思いますが、飲食店の入れ替わりは非常に激しいのです。5年も10年も隆々と繁盛し続けている飲食店はまず見当たりません。次から次へと新しいコンセプトの飲食店が出店し、そして消えていく、まさに血で血を洗うレッドオーシャン市場での厳しい戦いです。つい最近新規開店したと思っていたら、半年後には閉店してすぐに違う飲食店が内装工事に入っているのもよく見ます。あれほど飛ぶ鳥を落とす勢いであった「ワタミ」でも業績は低迷していますし、「すきや」を始め多くの大手飲食チェーンですらも人手不足から大変な状況に陥っています。

私自身は、特に飲食業界に注力したコンサルティングを行っているわけではありませんが、多くの業界での海外展開の視点から見ても、かなり経営コンサルティング的にはヘビーな業界です。それは、経営上のあらゆるエッセンスが凝縮されているからで、ある意味生半可な知識と能力で安易に参入すると事業に失敗する確率が高いと思っています。おそらく飲食店事業に失敗する経営者の多くは、誰にも負けない(と本人が思い込んで)美味しい食事を出せさえすれば、評判となって多くの客が押し寄せ繁盛すると誤解しているのではないかと感じるところがあります。

もちろん、提供する食事、つまり商品の価値は一番大事です。しかし、価格をいくらにするか、つまり客単価をどう設定するかは経営面ではより重要であるのです。当然事業ですから、利益を上げるには売上が伴わないと行き詰ります。売上が確保できて初めて利益につながるのですから、最も重要な公式である「売上」=「客数」X「客単価」X「購入頻度」の経営の一丁目一番地となる原則が厳格に適用される業界なのです。「売上」を伸ばす(増販)には、「客数増」つまりどういった顧客層にターゲットを絞り、集客をどうやって図るかといった事業領域とマーケティング戦略の根本が試されますし、「客単価」つまり商品の品揃えと付加価値をどの幅に設定するのかという「商品戦略」、そして「購入頻度」を上げていくには顧客との関係性強化、囲い込み戦略、販売促進戦略が課題となります。「客数」と「客単価」は通常は二律背反しますので、薄利多売の事業で客数確保を重視するのか、客数を絞り込んで商品の品質とサービスによる顧客の囲い込みで付加価値と購入頻度を上げて売上増を図るのか、店のコンセプトとも直結する需要な経営戦略となります。

一方、売上を上げたら自動的に利益増につながるというものでもないのが飲食業界の特徴で、原価率と固定費をどこまで抑えた価格設定にするかも、売上増を検討するうえでも欠かせない要素です。つまり、損益分岐点分析が非常に重要です。一日あたり何人以上の来客があれば利益がでるかというのは、原価率と固定費に大きく左右されるので、集客や顧客関係性強化にかかるコストにも影響します。

またどんなに小規模の飲食店であっても、だいたいバイトを採用します。ということは、まず人をどうやって確保するか、人件費の固定費をどう管理するのかに加え、従業員の育成やシフト管理など人事管理上の課題にも取り組まねばなりません。加えて、生鮮材料を毎日調達する必要があり、それらが日々変動する価格や在庫の廃棄処分が収支に及ぼす影響、食事の品質に直結する在庫の鮮度管理、そして競争に勝っていくための新規商品開発、つまりメニュー開発は欠かせません。

日々ありとあらゆる経営戦略を実践していかなくては勝ち残れない熾烈な業界です。頭も体力もずば抜けた能力を備えた経営者でないと到底勤まりません。経営理念も経営戦略も、マーケティングアイデアの卓越さも、実行力も、人を使う能力も、顧客からの信頼も、そしてこれらをやりきる知力、体力、精神力が必要なのです。美味しい食事を調理することなら自信があるが、人事や経理、マーケティングはさっぱりという経営者では、まず早晩行き詰るのではないでしょうか。

他の業界では、ずば抜けた商品であったり、マーケティング力さえあれば、アウトソーシングをうまく活用すれば、何とか経営をやっていく余地はあるかも知れません。しかし、飲食業界ではなかなか他の経営資源を使って勝つことは難しいと思います。むしろ、うまく外部のアドバイザーなどの知恵を活用することこそが成功の近道のような気がします。

したがって、経営研修では、あらゆる経営要素を必要とされる飲食業界を事例として演習することが、経営者育成でもっとも効果的だと考えているのです。

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