お別れの時をお好きだった曲で【ご葬儀でご依頼のあったピアノ演奏】1

2022年11月12日公開 / 2023年12月17日更新

テーマ：音楽雑記

コラムカテゴリ：スクール・習い事

その方は合唱団のリーダーでした。
私が卒業して、岡山へ戻ってきた時に
「合唱団の伴奏をしてね。待ってたよ」
と帰りを喜んでくださった女性でした。

　学生生活を都会で満喫して「ああ、帰るのはいやだなあ」
と思いながらも親との約束「4年で帰ってくること」
を守りしぶしぶ帰ってきたのです。
仕事も決めておらず東京で使っていた
グランドピアノと身の回りのものを一緒に引越しのトラックで送り出し、
都会に別れを告げて新幹線に乗り込みました。

　最初は仕事がなかなか見つからず、
洋服関係のアルバイトをしておりましたが
「夜なら空いているでしょう？」と月に四度ほどの
女声コーラスの伴奏の仕事をいただきました。
当時私の母もその合唱団で歌っておりましたので、
免許取り立てで車に乗り母と一緒に練習に通いました。

最初は伴奏で行きましたがそのうちに
指導の先生の都合で私がそのまま指導を引き継ぎました。
当時はママさんコーラスがとても盛んであり、
年に何度もステージもありました。
みんなでお揃いの衣装を作って着始めたのもその頃。
正統派の合唱曲をしっかり練習して暗譜して舞台に何度も立ちました。

合唱団というのはその練習の時間だけの付き合いではなく
実はとても仲良くなると親しい友人のような付き合いがはじまります。
その頃の人たちとの交流はまだ続いています。

その団の代表者であった彼女は
私の小学校時代の同級生のお母さん。
ですから小さい時からよく知っているわけです。
豊かな声と行動力、合唱に熱心なところが大好きでした。

ある時、夏の合唱祭のステージに出る予定の少し前に
入院されることになり、その後も闘病を続けられておりました。
最後にお目にかかったのは合唱団の懇親会。
ある場所で温泉に入り、その後食事を一緒にした日でした。
「ちょっと痛いのよ。このあたりが変なの」と言われていて心配していました。

「愛の讃歌」がお好きと聞き、
カラオケでも好んで歌われ、合唱編曲したものも一緒に歌いました。

そのときにそっと言われたのが
「私のお葬式のときは先生、ピアノで愛の讃歌をよろしくね。頼むよ」
冗談の延長のような感じで告げられたのでした。

私は「またまた、そんなのまだ先だよ。でも、そういう時があったら
きっと弾かせてもらうね」と答えました。

いよいよ体調がお悪くなられたときにその方の娘さんと話しました。
私の同級生です。「えりちゃん。もしもの時はお願いね。愛の讃歌。ピアノね」
と言われたのです。

私は困惑しました。そんなに悪いの？そんなことってあるの？と。

でもやっぱり病状はよくなくて・・・・
ついにその日をむかえてしまったのです。

悲しい気持ちがとても大きかったのですが、
ご本人からもご家族からもご依頼いただいた
「音楽で送ってほしい」というお気持ち。
当時はまだそんなにご葬儀の時にピアノの生演奏を入れて
というスタイルは行われていなかったと思います。

でもぼやぼやしてはいられません。
急いでまずはグランドピアノを貸してくれて会場へ
運んでくれるところを見つけないといけません。

でも、「どうしてもグランドピアノの音で母をおくってあげたい」
という想いを叶えてあげたかったので
運んでくださる方を探しました。

しかしなにしろはじめてのことですから急いで会場へ
打ち合わせにまいりました。

書くのが遅くなりましたが多分20年ほど前だったと思います。
二月の寒い日であったことはおぼえています。
（次へ続きます）