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  1. 新型コロナウイルスに備えるために-気道感染症における抗生物質の使い方-
星野智祥

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星野智祥(ほしのちしょう) / 医師

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コラム

新型コロナウイルスに備えるために-気道感染症における抗生物質の使い方-

2020年5月22日 公開 / 2020年5月27日更新

テーマ:アドバイス

コラムカテゴリ:医療・病院

コラムキーワード: 感染症対策

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

【抗生物質使用の適正化が必要な理由】
今回は、気道感染症における抗生物質の使い方について書いていきたいと思いますが、その前に、抗生物質の使い過ぎはどんな影響をもたらすのか整理したいと思います。

耐性菌の増加・副作用の増加
感染症の重症化・合併症の増加
入院の増加・入院期間の増加
死亡率の増加
医療費の増加

抗生物質の使用は腸内細菌のバランスを崩し(ディスバイオーシス)、その結果、個人レベルの健康に様々な形で影響を及ぼしますが、それ以外に、耐性菌の増加による上記のような弊害が問題になってきます。実際、細菌による尿路感染症や気道感染症の患者が抗生物質治療を受けると、治療後、12か月にわたって抗生物質の耐性が持続すると報告されています

抗生物質が最も処方される場所は、プライマリ・ケア(かかりつけや一般医療機関の外来)の現場です。ヨーロッパでは、実に80%~90%の抗生物質は、プライマリ・ケアの現場で処方され、その大部分が気道感染症のために処方されていると報告されています。

そして、抗生物質の使用量が増えるにしたがって、個人レベルでも集団でも耐性菌を持つ割合が増えていくのです。

【急性気道感染症における抗生物質の使い方】
以上のような流れの中で、外来における抗生物質の適正使用が優先度の高い課題となり、2017年に厚生労働省抗微生物薬適正使用の手引きが発行されています。

この手引きでは、肺炎以外の急性気道感染症を「感冒」、「急性咽頭炎」、「急性副鼻腔炎」、「急性気管支炎」に分けて解説しています。

ウイルス感染症というのは、様々な場所に症状を引き起こすのが特徴です。上気道炎でいえば、くしゃみ、鼻水、咽頭痛、頭痛、咳、筋肉痛、関節痛、下痢など多彩な症状を引き起こします。インフルエンザウイルスやコロナウイルスでもそうだと思います。
一方で、細菌感染症というのは、一つの場所に集中的に症状を引き起こすのが特徴です。
喉の痛みはあるけど咳が出なかったり、逆に、咳や痰が出るけど咽頭痛はなかったりするわけです。例外として、マイコプラズマやレジオネラによる肺炎や、ウイルス感染症から2次的に細菌感染を合併した場合は、いろんな症状が出る場合もあります。

●感冒
感冒とは、咳、鼻汁・鼻閉、咽頭痛がどれも満遍なく存在し、重症感が低い状態で、この場合は、抗生物質が効かないウイルスが主な原因ですので、抗生物質の使用は推奨されていません。
症状は、最初の2~3日が症状のピークで、7~10日の間で徐々に改善してくるとされていますが、ライノウイルスが原因の場合、鼻汁や咳は、徐々に良くなりながらも2週間程度は持続すると報告されています。しかし、徐々に軽快してくるという自然経過から外れて悪化傾向を示したり、一旦良くなった症状が再び悪化する場合は、細菌感染症の合併(新型コロナウイルス感染症の場合も一般的なウイルス感染症とは違った経過になります)を考えます。

●急性咽頭炎
抗生物質の適応があるのは、A群溶連菌による咽頭炎になります。先に触れたように、ウイルス性咽頭炎の場合は、咽頭痛以外に、くしゃみ、鼻汁、咽頭痛、咳、下痢などいろいろな症状が同時に、また時間差で現れるのが特徴です。
A群溶連菌が原因かどうかは、McIsaacの基準という症状のスコアで判定し、このスコアが3点以上であれば迅速検査や培養検査を行い、検査結果が陽性なら抗生物質を使用します。手引きでは、抗生物質が使えるのは、あくまで迅速抗原や培養検査が陽性の場合のみとしています。
また、伝染性単核球症というEBウイルスやサイトメガロウイルスによる咽頭炎との鑑別が重要になりますが、前頸部以外の頸部リンパ節の腫大、脾腫、白血球のリンパ球の数や異形リンパ球の割合で判断します。
さらに、喉の痛みを引き起こす重篤な病態、例えば、急性喉頭蓋炎(声帯付近を中心とする感染症で窒息の危険あり)、扁桃や咽頭周囲の膿瘍、細菌性血栓性静脈炎、心筋梗塞、動脈解離などをしっかり鑑別する必要があります。

McIsaacの基準を示します。
発熱38℃以上  1点
咳がない    1点
圧痛を伴う前頸部のリンパ節腫脹 1点
白苔を伴う扁桃腺炎 1点
年齢 3~14歳  1点
年齢15~44歳  0点
年齢45歳~   -1点
A群溶連菌による咽頭炎は、咽頭に集中的に炎症を起こしますので、咳が出なかったり、年齢が高くなると溶連菌による感染症の頻度が少なくなることが点数に反映されています。

選択する抗生物質は、A群溶連菌に対して100%感受性のあるアモキシシリン(サワシリン)1回500㎎を1日2回~3回内服10日間が第1選択ですが、ペニシリンアレルギーがある場合は、クリンダマイシン(ダラシン)1回300mg1日3回10日間か、セファレキシン(ケフレックス)1回500㎎1日3回10日間を選択します(A群溶連菌感染後のリウマチ熱の予防のために10日間という少し長めの服用期間になっています)。以前は、ペニシリンが使えない場合は、マクロライド系抗菌薬が第2選択だったのですが、耐性菌が増えて今は推奨されていません。

●急性副鼻腔炎
いわゆる蓄膿症です。鼻の奥にある副鼻腔に感染が起きた状態で、ウイルスと細菌の双方が原因になりえます。ただ、手引きでは、成人の軽症急性副鼻腔炎対して抗生物質の使用は推奨されておらず、中等症または重症の急性副鼻腔炎に対してのみ抗生物質の使用が推奨されています。

急性副鼻腔炎の重症度のスコアリングは、以下のように臨床症状と鼻腔所見に分かれています。
鼻漏(頻繁にかむ頻度) 時々鼻をかむ1点、頻繁に鼻をかむ2点
顔面痛・前頭部痛    痛みがあるが我慢できる1点、鎮痛剤が必要2点
鼻腔所見での鼻汁や後鼻漏 粘膿性少量1点、粘膿性中等量以上2点
以上の総得点で、1-3点が軽症、4-6点が中等症、7-8点が重症と判定されます。

この他、細菌性の急性副鼻腔炎を疑う症状として、症状が7-10日以上続く場合、感冒などの上気道炎がいったん軽減してから、膿性鼻汁、鼻閉、顔面や前頭部の自発痛または圧迫感や圧痛が出現した場合です。

選択する抗生物質は、主な原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとは全く違う細菌です)を想定して、ペニシリン系抗菌薬のアモキシシリン(サワシリン・パセトシン)1回500㎎を1日3回内服5~7日間が第1選択ですが、ペニシリンに対する耐性菌が想定される場合は、アモキシシリン1回250㎎1日3回5~7日と、アモキシシリンにクラブラン酸を配合したオーグメンチン配合錠250RS(375㎎)1日3回5~7日を併用したりします(オーグメンチン&アモキシシリンを略して、バトミントンのペアのように“オグサワ処方”と呼んだりします)。

もし、ペニシリン系抗菌薬(βラクタム系)に対してアレルギーがある場合、やむなくフルオロキロノロン系のレボフロキサシン(クラビット)500㎎1日1回5~7日、もしくはガレノキサシン(ジェニナック)400㎎1日1回5~7日を使用します。

ちなみに、小児(6か月~12歳)の急性副鼻腔炎、急性中耳炎、溶連菌性咽頭炎の患者30159人に対して、狭域抗菌薬(ペニシリン・アモキシシリン)と広域抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸・セファロスポリン・マクロライド)の効果を比較した無作為化比較試験がありますが、両群とも初期治療に失敗した割合に有意差はなく、広域抗菌薬群においてQOL(生活の質)のわずかな低下や患者報告の副作用が有意に多かったとしています。

●急性気管支炎
急性気道感染症のうち、咳を主体とする症状を呈し、副鼻腔炎や肺炎が除外された病状を指します。
手引きでは、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患や合併症のない急性気管支炎に対しては、百日咳を除き抗生物質投与を行わないことを推奨しています。

ちなみに、18歳以上の急性気管支炎の患者3108人を対象に、抗生物質(アモキシシリン)を使用した群とプラセボを使用した群に分けてその後の症状の調査を行う無作為化比較試験が実施されていますが、症状の持続期間、重症度とも両群に有意差はなかったと報告されています。しかし、新たな症状の出現や症状が悪化した割合が抗生物質群15.9%、プラセボ群19.3%と、抗生物質群で有意に低かったのですが、その一方で、抗生物質群では、皮疹、嘔気、下痢などの副作用がその利益以上に多く、報告者は急性気管支炎の患者に対して抗生物質の使用は推奨されないとしています。

急性気管支炎の場合、肺炎との鑑別がとても大切になりますが、38.6℃以上の発熱、脈拍100以上、呼吸数20回/分以上、酸素飽和度94%以下の一つでも当てはまれば、肺炎を疑って胸部レントゲン撮影を行うことが推奨されています(聴診器で痰が絡むような呼吸音を聞き取った場合や医師としての直感でレントゲン撮影を行う場合もあるでしょう)。

成人の百日咳は、14日以上続く咳に加えて、顔を真っ赤にして激しく発作的に咳こむ場合、最後にヒューと音を立てて息を吸う咳発作がある場合、咳込み後に嘔吐する場合、無呼吸発作がある場合のいずれか一つが当てはまる場合に疑い、鼻腔、咽頭などから検体を採取して病原体を同定する検査、PCR法による遺伝子検査、採血による抗体検査のいずれかを行い、陽性の場合に確定診断となります。

抗生物質は、マクロライド系薬剤(クラリスロマイシンやアジスロマイシン)などが第1選択となります。

ただ、この流れで抗生物質を投与しても、治療のタイミングが遅すぎて、咳の軽減には有用ではなく、あくまでも除菌をして他人への感染を予防するという意味が大きいという点に注意が必要です。

以上、急性気道感染症で抗生物質を使用する場合は、ペニシリン系薬剤の使用が第1選択として推奨されています。

新しい抗生物質が次から次へと登場してくるにしたがってペニシリンは過去の薬というイメージが定着してしまったのですが、今も健在なわけです。

特にアモキシシリン(サワシリン)は、腸管からの吸収率(生体利用率)が90%以上で、副鼻腔や喀痰への移行性も良好で、もっと見直されても良い抗生物質と言えます。

ちなみに手引きでは、広く処方されてきた第3世代セファロスポリンは、耐性菌を増加させたり、生体利用率が低いため、急性気道感染症には原則使用しないとしています。

以下に第3世代セファロスポリン各薬剤の生体利用率を紹介します。
セフポドキシムプロキセチル(バナン)50%
セフィキシム(セフスパン)31%
セフニジル(セフゾン)25%
セフジトレンピボキシル(メイアクト)14%
セフカペンピボキシル(フロモックス)30-40%(尿中排泄率から推測)
セフトラムピボキシル(トミロン)不明

せっかく内服したのに、吸収されずに腸を素通りしてうんこになって出ていってしまう薬剤が多いのです。
また、小児に対してピボキシル基を有する抗生物質を使用すると、低カルニチン血症による低血糖、けいれん、脳症を引き起こすことがあるとされています。

抗生物質を使う場合は、ついつい浮気してしまったけど、昔の恋人(今の配偶者?)と、もう一度よりを戻すような気持ちが必要のようです。

※ブログ等に記載された内容について、電話による個別の健康相談などは行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

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星野智祥

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