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杉村基樹

保育施設を対象とした人材育成のプロ

杉村基樹(すぎむらもとき) / 人材育成コンサルタント

株式会社ネクサス

コラム

保育の仕事と人事評価|納得性をどのように担保するか?

2022年5月6日

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 組織マネジメント人材育成 研修

皆さんの保育園では、保育士の人事評価をどのように実施していますか?

保育園で評価というと保育の自己評価や、キャリアパスにおける能力評価、第三者評価など、評価という言葉があちこちで出てきて混同されがちですが、今回は人事評価のお話しです。

保育士の人事評価では、数多くの項目が一覧になった評価シートを使って、半期ごと、あるい年度末に自己評価に加え上司評価を行い、その後に面談…という流れの保育園が多いでしょう。一方で、とくに職員の人事評価はしていないという保育園もあるようです。

実施している保育園でも、評価時期が来ると評価シートが配布され、忙しい保育の合間でバタバタと保育士が自己評価。なんとか上司評価をやっつけて、面談はしたりしなかったり…そんなイメージがあります。

せっかく貴重な時間とエネルギーをかけてやるのなら意義のあるにしたいですよね。


保育士の仕事は数値化できないから評価が難しいのか?


保育園の経営や人事に関っておられる皆さんは、保育士の評価でどんなことに困っていますか?
制度設計のお手伝いをさせてもらっていると、次のような課題をよく耳にします。

・保育の仕事は数値化できないので評価が難しい
・何を基準に評価したらいいかわからない
・公平に正しく評価できるかどうか自信がない
・上司評価と保育士の自己評価にギャップがある
・保育士のモチベーションが下がりそうで怖い
・保育士一人ひとりの仕事ぶりが見えない
・評価や面談にエネルギーを割く余裕がない
・評価することに意義を感じられない


保育の仕事は成果を数値化できないから評価自体が難しい…これはよく言われることです。保育を具体的な数値に置き換えることが難しいので、評価基準がどうしても曖昧になる。
それも確かに評価が難しい理由の1つとして存在するとは思いますが、数値化できない仕事は他にいくらでもあります。つまり保育の仕事に限ったことではありません。

また、評価が上手くいかないと、評価項目をどうにかしたいという相談を受けることが多いです。つまり評価項目に問題があるのではないかと考えていらっしゃる。

しかし、上記の課題を見ていると、もっと本質的なところに原因があるように思えます。上手くいかないのは項目のせいだけではありません。


評価で大切なのは「納得性」|納得性を担保するために必要な考え


評価で重要になるのは「納得性」だと考えています。

少し乱暴な言い方かもしれませんが、納得していさえいれば正確に評価する必要はないのではないでしょうか?
正確に判定しよう、厳密に評価しようという考えが悪いとは思いませんが、果たしてそんながことが可能なのでしょうか?

先ほど保育の仕事は具体的な成果を数値にするのが難しいと書きました。そうなると成果を正確に見極めることは困難です。難しいのであれば正確に結果判定することは潔く諦めて、考え方を変えてみるのも1つの方法です。
また、正確であることが必ずしも効果的だとも限りません。

ここからは「納得性」を担保するための評価制度について考えてみたいと思います。

まず、前述した「よくある課題」を感じている人の多くは、評価はジャッジ(判定)だと考えていると思います。その園その園の事情がありますし、そのような側面があることは否定しません。
ただし根本的なこととして、人から評価されるのが心地いいと思う人はあまりいないのが事実であり、自己防衛的になるのが自然な反応です。
ようするに、良く見せようと自分の感覚よりも良い評価をつけてみたり、謙虚になりすぎて実際よりも低い評価をつけてみたりするのが当たり前に起こるということです。

人は感情の生き物ですから、既成概念や思い込みなどからバイアスを受けもするし、置かれた状況次第で気持ちの浮き沈みもある。そもそも全てを正しくジャッジ(判定)することなどできないのです。

職員がそうなら上司だって同じはず。上司は神様で、全てを正確にジャッジ(判定)できるというのなら別ですが…普通は違いますよね。そうであるなら、ジャッジ(判定)することを手放してみてはどうでしょう。


人事評価における上司の役割|保育士一人ひとりの成長をサポート


では、評価における上司の役割がジャッジ(判定)ではないなら、一体何をすべきなのか?

上司の新しい役割は、保育士の自己評価をサポートするということ。

もっと具体的にいうと、保育士自身が自分の保育や仕事ぶりを振り返り、それがどうだったのかを的確に捉えられるようにサポートすること。そこで得られた知見を次の経験に生かしたりすることを支援することです。

さて、人は自分で決めたことに対して責任を持つ生き物です。人から言われるより自分で気づいたことの方がモチベーションを発揮できます。保育士一人ひとりが主体的に自分のスキルアップを考えて欲しいのであれば、自分で考える環境をつくる必要があります。この場合、上司の関わりは審判ではなくコーチ役です。

これらのことを踏まえ、「納得性」のある評価を行うためのポイントを3つ紹介しておきます。

  1. 人事評価の目的を明確にする
  2. 人事評価の成否は運用が9割
  3. 経験学習サイクルを回す



1.人事評価の目的を明確にする|保育士は評価に意義を感じてい


そもそも評価の目的は何ですか?
何のために評価制度を取り入れるのでしょうか?

賃金制度上の都合であったり監査対応など、制度導入の直接的なきっかけは様々あると思います。実際、人事評価の意義目的が曖昧であることはとても多いです。あるいは最初は目的が明確だったものの、進めているうちに目的が曖昧になったり、知らないうちに目的がすり替わったり…なんてことも。
現場の保育士も、目的が曖昧ないまま評価されるとしたら不安になって当然です。

評価の本来の目的は人材育成であり、その先にある保育の質の向上です。
しかし、ただ評価を実施すれば保育士が成長するわけではなく、評価を上手く活用して人材育成に繋げようというマネジメントの方法にすぎません。
つまり人事評価はあくまでも道具の1つにすぎないということですね。

実施する側が目的を明確にすることはもちろんですが、評価が単なる面倒な作業と映らないよう全職員で意義目的をしっかり共有してから取り組むことが大切です。

私たちの保育園は何を目指しているのかを明確にし、そのために保育士一人ひとりが主体的に自分自身のスキルアップ取り組む風土を醸成する、その意義を繰り返し伝えていく必要があります。


2.人事評価の成否は運用が9割|小さくはじめてしっかり運用!


意義目的を明確にして、仕組みを整えても、継続できないようでは意味がありません。最初から複雑でスケールの大きなやり方を考えるよりも、小さくでも無理なく続けられるほうがいいです。

株式投資のキャッチコピーみたいですが、小さくはじめてしっかり運用です。笑

運用の妨げになる要因は何が考えられるでしょう?
例えば保育園の場合、保育士が相当数いたとしても、評価者は園長一人だけという場合が多くないですか?
評価においても職員一人ひとりの仕事ぶりが見えていなければ、事実に基づいた評価を行うことが難しくなります。
そうなると、何となくの「印象」で評価してしまうわけですね。

マネジメントでは「統制範囲の限界」という考え方があります。
これは、どんなに優れたリーダーでも管理する部下の数は7名までが限界で、それ以上になると管理能力が低下しますよ、というもの。
園長先生は余裕で限界突破していますね?!

できれば、保育士の普段の仕事に関わっているリーダー職員が評価に関わるようにするなど役割を分担するほうがいいでしょう。
印象評価を避けるためには、適正な人数の評価を行うことが大切です。

それでも多人数を評価しなければならない場合、次のポイントに気をつけてみて下さい。


事実情報を集める

できるだけ客観的な視点で…とはいうものの、結局のところ評価は人の「主観」です。そして私たちも人間ですから、見方には多かれ少なかれ偏りがあって当然。
園長がただ一人の評価者である場合はとくに、評価するための材料を持っていないことが多いので、「何となく○○さんは頑張っていた気がする」というような印象でしか評価できません。
何となくの印象で評価すると、どうしても納得性の欠けるものになりがちです。主観で評価を行いながらも、可能な限り納得性を担保するためにはどうしたらよいでしょうか。

これは実際の話ですが、ある会社の女性マネージャーが部下も忘れているような出来事や成果について面談でフィードバックできるよう、メモに残してファイリングしているそうです。面談の時期になると記録を見て、どんなことを承認しようか、何をフィードバックしようかと検討するのだそう。すべて事実情報に基づいているので「納得感」があるのは言うまでもありません。

本人すら忘れていたようなことを上司が覚えていてくれて、それを承認してくれたりする。このような上司からのフィードバックは受け入れやすいはずです。
もちろん普段からの関わりは欠かせません。普段は関心なさそうなのに評価のときだけ指摘するのとはまるで違います。


運用面で、もうひとつ課題となることがあります。
頻度の問題です。
評価の頻度はどのぐらいが適当なのでしょうか?


3.経験学習サイクルを回す|保育士が自分を振り返ることを支援


評価は定点観測です。

一定期間ごとに自己評価を行うことで、自分自身の普段の保育と仕事ぶりを振り返り、そこから気づきを得て次の機会に活かす…経験学習のサイクルがまわることで評価が人材の成長につながります。
経験から得られる学びを促進するために、評価という材料を上手に活用して人材育成に繋げる。それが目的でしたね。※経験学習サイクルについてはこちらのコラムもご覧ください。

この「振り返る間隔」はできるだけ短い方が効果的とされています。

だからといって人事評価を毎日やるのは非現実的ですし、まずは自分で自分の仕事ぶりを振り返るのが基本です。
この振り返りをより効果的にするために、節目節目で他者が関わる。一人の視点よりも複数の視点、客観的な視点が加わることで気づきをより深いものにすることができるわけです。
普段の振り返りの促進は日常のマネジメントの中で行うことを意識し、継続可能な範囲で他者評価も行うことがいいと思います。

一方で、私たちは人から評価されることには余り慣れていないというか、あまり心地いいものではないですから、上司の主観で良い悪いといったジャッジ(判定)するよりも、事実情報をそのままフィードバックするほうが相手は受けとりやすいのです。

また、保育園の多忙な毎日を目の前にするとペーパーによる評価だけで済ませたくなりますが、定期的な面談を行うことも必要です。対話をすることで評価シートには記されていない意味や事実がはじめてわかることもたくさんあるでしょう。


評価は職員と上司とで一緒につくりあげる|保育の質の向上に向け


ジャッジ(判定)することを手放せば、違う景色が見えてきます。

上から評価するという一般的に認識されている評価の考え方をやめて、保育士自身の的確な自己評価をサポートするのが上司の役割と考えてみて下さい。
そう考えると、「今期の仕事ぶりは○○だった」と職員と上司が一緒につくり上げるのが人事評価だという感覚が近いのかもしれませんね。

もちろん、職員の成長に上司がコミットすることと、人事評価以前に普段の関わりが一番重要であることは言うまでもありません。

まずは、皆さんの保育園における評価の目的を明確にするところからはじめてみてはいかがでしょうか。

ではまた次回のコラムでお会いしましょう!

こちらもご覧ください↓↓↓
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