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井上博文

大学院・大学編入受験のプロ

井上博文(いのうえひろふみ) / 塾講師

株式会社コムニタス

コラム

研究計画書を書くまでの下準備プロセス

2023年3月12日

テーマ:実は難しい研究計画作成方法

コラムカテゴリ:スクール・習い事

まずは研究計画以前の問題からクリアしておく

先週、「失敗しない研究計画:成功例と失敗例を学ぶ」のセミナーを開催し、たくさん参加していただきましたが、誰だって、初めてのことは不安です。私たちは、まずその不安に寄り添うところから始めます。研究計画書の作成は、大学院受験の難所です。これは大学院入試において重要な書類となります。特に今年は重視される傾向にあると思われます。大学院は基本的には研究機関ですので、やはり研究能力は問われます。この書類の出来具合は、合否に影響を与えることは間違いありません。ですから、ある程度説得力のある研究計画書を作っていく必要があるのです。京都コムニタスでは、いかに良い研究計画を組み立てるかについてしっかり考えてもらえるように指導していきます。学校によっては
「●●のテーマだとうちでは指導できません」
などと言われることもありますのが、実際には、そのケースは意外と少なく、基本的に研究計画自体がしっかり作れているならば、多少、先生との専門分野が離れていても、それだけで不合格になるというケースはほとんどないと見ています。そのため、あまり先生に忖度するのではなく、「行きたい学校に行ってやりたいことをする」という基本を崩さず、自分が何を明らかにしたいのかをしっかり考えて、その設計図を作ることの方が重要です。研究計画は、いつもレシピと言いますが、実際に自分がどんなことをしようと考えているのかを行動に移すための企画書とも言えます。
実際に研究計画を作る皆さんは、「下準備」から始めるのが妥当です。当塾の塾生さんは、その「下準備」のところは必修の授業を受けていただくことでカバーします。


資料の重要性を知る

必修の授業で私がよく使うフレーズに「資料に物語らせる」というものがあります。実はこれは私のオリジナルではなく師匠の受け売りです。しかし、大変重要な言葉です。我々は資料が物語ることの代弁者でなければなりません。例えば、コロナに関するデータは研究者によって解釈が分かれます。マスクやワクチンに意味があるという人もないという人もいます。それぞれが専門家で、ツイッター等でケンカになっていることもありますし、政治が絡んでいるとか、陰謀論だとか言う人もいます。要は「人」ではなく「資料:数字、データ」を見るのが我々の仕事だということです。
もちろん、専門家の見解も全部間違っているかもしれません。複数が当たっているかもしれません。いずれにせよ、その資料が物語ることを根拠をもって解釈するのが我々の仕事であり、そしてその資料を読みこなす能力が求められるのです。その能力とは一つは語学力です。ほかには、論理力が挙げられます。あとはバイアスをかけずに真っ白な状態で資料を見る目も必要です。

研究計画は料理のレシピと同じ

私はこの研究計画書をいつも料理のレシピに例えます。かなり構造が似ているからです。
例えばハンバーグを作るにしても、素材、道具、方法、独自性は皆盛り込まれているはずです。場合によっては素材を集めてくる方法まで記されている場合もあります。そして手順も記されており、それに従えば、個人差はあれども、大体同じハンバーグができると思います。気がついたらパスタになっていた、なんてことがおきたらびっくりします。
例年、京都コムニタスでは計画をつくるために大学の先生にアポイントを取って、質問に行く人や独自調査をする人が多いですが、最近はコロナで残念ながらほとんどそんな活動はできません。修論の人も本当に困っています。メールや電話、zoomなどでインタビューをさせてもらっている人もいます。皆それぞれで頑張っています。こうやって作ったものは一生忘れません。またいろいろな壁にあたりますが、乗り越えることによって大きく成長することもあります。ですから、この研究計画書作成で手を抜かずに最後までやり遂げると、十分な成果が得られます。

疑問に至るにはキーワードの設定

京都コムニタスでは、まず、外せないキーワードを20から30程度持ってきてもらうところから始めます。通常、研究者は「私は○○の研究をしています」ということを基本となる大枠(精神分析など)と、そこから焦点を定めた「今の問題」の二つを専門とイメージします。本来ここは分けておかねばならないところですが、初動の段階では「どこから手をつければよいのかがわからない」ので、宇宙空間に放り出されたような気持ちになってしまうこともしばしばです。まずは自分のバックボーンを大切にします。自分のこれまで考えてきたこと、興味あること、仕事の中で得た問題意識などを支えとします。これらをイメージした上で自分にとって外せないキーワードを定めるところから始めます。
このキーワードが定まったら、次は、傾向を見ます。傾向というのは、例えば、不登校というキーワードがあった場合、他のキーワードを見れば中学校、子どもなどと出ていることは一般的ですが、親、家族なども出てきているならば、「不登校の親の支援がしてみたい」と考えている可能性は十分にあります。こういったものをいくつか設定してみます。
ここまでできたら、次は、一度論文を探します。とりあえずはCiNiiからでいいと思います。私たちの世代に言わせれば今は贅沢な時代です。その分堕落しやすくなりますが、ネットで論文を探せるならば、まずは使ってみるのが良いかと思います。大切なことは、ネットだけを頼りにしないことであって、ネットを使ってはいけないわけではありません。CiNiiには「全文検索」のチェックボックスがあって、これは大変便利です。これを使って、とりあえず、気になる論文の題目を20から30持ってきてもらいます。そうすると、かなりどんなことに興味があるか、傾向が見えます。このあたりから人によって異なってくるのですが、一つのパターンとしては、論文を一通り読んだあと、あらためて研究で問いたい自分なりの疑問文を作ってみます。この時、必ず、疑問詞と主語を明確にします。これによって問題意識までを形にすることが可能になります。ここまでできたら、あとは情報を増やしたり、独自調査をしてみたり、さらに専門的に論文を探してみたりと連鎖的に作業内容が見えてくることになります。このプロセスをふむことで、
自分がどういったことをすべきかが見えてきます。

疑問の設定

研究計画書作成で一番と言ってもよいくらいに大事なことは計画書作成者の「疑問」です。特に疑問詞をつけた疑問である必要があります。例えば「少子化は解消されるか?」よりも「どのようにすれば少子化は解消されるか?」の方がはるかに具体的ですし、読み手の興味をひきます。しかし、上記程度の疑問ですと、すでに誰かが検討している可能性が高いため、もう少し絞り込みが必要です。例えば、「働くことを希望する母親にどのようにすれば少子化は解消されるか?」これで一歩前進です。でもこれでもまだまだです。そうして、少しずつ疑問を育てる必要があります。ここでやるべきことは情報収集です。特に新しい情報が必要です。(少子化だけをとってみても3年前の情報だと使い物になりません)
その最新情報を駆使して、現代に相応しい疑問を作り上げていくことが重要です。もちろんこの作業には時間がかかります。
京都コムニタスでは、スタートからゴールまで、一緒にこうやって研究計画書作成の下地を作って、これを足掛かりに本格的な研究計画書作成に取り掛かります。

道具と素材

ある程度疑問が整ったら、次は素材と道具集めです。料理のレシピで言えば、料理のテーマ(カレー、ハンバーグなどなど)、素材(●●鯖や鯵、牛肉などなど)、調理法、道具なども考えていく必要があります。そのためにはまずは情報収集です。先人が似たようなことをしていますので、それを調べる必要があります。先人と重ならないことも大切ですが、それだけではなく、先人がどんな疑問を持って、何を明らかにしようとして、どんな対象を使って、どんな方法で取り組んだのかを学ぶ必要があります。自分が明らかにしようとすることについて、方法が確立されている場合とされていない場合があります。宇宙のはるかかなたの星の土を研究しようと思えば、「ハヤブサ」に行ってもらうしかありませんが、それが確立される前と後では方法は全く異なります。これから宇宙の研究をしようと思う人が、ハヤブサについて、「聞いたことも、見たこともない」では、研究意欲自体があるのかと疑われてしまいます。そのために情報収集の基本的なこととして、文献収集をしなければなりません。今の時代はインターネット使用が標準ですので、ネットで文献を探すのが基本です。最近はたくさんの検索サイトがあります。わからない時は、大学図書館のサイトをみると、一通り紹介されている場合が多いと思います。今のところ、一般的に使われている論文検索サイトはCiNiiやGoogle scholarなどと思われます。とりあえずこのあたりを使いこなすことから始めましょう。これらは、PDF で論文を見ることができるものも結構あり、私たちが院生だったころからすると夢のような時代です。また、Googleを使うと海外の文献を探すことも可能ですので、必ず海外の文献を入手しておくことが必要です。私の印象では、CiNiiは丁寧に探してくれるけれど、その分引っかかる数が少なく、Googleは逆にたくさん引っかけてくれるのですが、かなり雑に引っかけてくれます。医学系ならばPubmedというサイトもあります。そうして集めた論文の参考文献を見て、また少し古い文献にも手を伸ばしておく方が良いと思います。そして文献ネットワークを自分なりに作っておくと、研究計画には非常に役にたちます。

テーマ設定

情報収集をある程度できるようになると、次はテーマ設定です。ここから長い旅の始まりです。レシピでもテーマがないと、読み手は困りますが、実はこのテーマ設定が意外に深いのです。料理といっても和洋中様々あります。まずはこのカテゴリーから決めないといけないでしょう。それが決まってから、料理のメニューを決めた方が、何となく思いつきで決めるよりもよい決定ができます。例えば、必修の授業でよく言うのですが、「ハンバーグカレー」という料理があったとします。しかし、これだけを見聞きすると、「ハンバーグが乗ったカレー」なのか、「カレーソースがかかったハンバーグ」なのか、どちらでも理解できます。つまり、このままだと、何の料理であるかを理解できていないということになります。研究計画のテーマも、たいていは、ここで悩む人が多いのです。つまり自分がどんな料理を作ろうとしているかが見えていない人が大半なのです。また、この意味で研究テーマを、いきなり何となく決めたり、以前からやってみたかったというだけでは、行き詰まってしまうケースが多くなります。やはり、まずは大枠から決めて、それから絞りこむのが順序としては適切になります。

例えば、箱庭療法の研究をしたいと言う人は多くおられます。しかし、たくさんのセラピーの中から箱庭を選ぶという流れもありますし、無意識の研究の延長線として選ぶ流れもあれば、子どものセラピーとして、描画やコラージュなどを調べるうちに、箱庭に行き着くかもしれません。それをアプローチと呼ぶわけですが、要は、箱庭にどうやって行き着いたかのプロセスが重要なのです。同じ箱庭だったとしてもアプローチのプロセスが違えば、全く似ても似つかない研究になるのです。その意味で、自分がどのようにして箱庭にたどり着いたかを、正確に知っておく必要があるのです。そうするとより適切な疑問が生じてくるようになってきます。

再度疑問の設定


情報(論文)集めをし、テーマを大枠で絞り込めたら、次は、改めて疑問を設定します。疑問Questionsは問題とも言います。この疑問の設定こそが、研究の行き先を決めます。疑問を設定する能力は、研究のスタートラインに立つために必要な能力です。逆から言えば、疑問を設定できなければ、研究もできないと言っても過言ではありません。この能力を養うには、やはり、情報量を獲得しておくことが基本です。情報がなければ疑問もおこりません。昔は情報が少なかったので、収集力が重要視されたのですが、今は、情報過多の時代ですので、整理力が求められます。それだけ、読みこなす能力が必要ということになるのです。

疑問の設定がおおむねできたら、(例えば、なぜ保育園と幼稚園は一体化しないかあるいは一体化したらどうなるか、など)次にやるべきことは、同じような疑問の論文をピンポイントで探します。仮に全く同じ疑問の論文が見つかったとすれば、研究計画書作成段階としては、少し疑問を変えた方が良いと思います。とは言っても、全く同じ疑問に出会う確率の方が低いと思いますので、思いきって自分の素朴に不思議に感じたことに挑んでもらった方がより良い研究計画になると思います。
しかし、一方で、「私の研究テーマは誰も研究していないので論文が全くない」と言い切る人も結構いますが、これは良くありません。今時、そんなテーマを探す方が難しいと思います。できるだけ海外の文献も含めて探すと、なにかしら引っ掛かりのある研究が見つかるものです。そして、適切な文献が見つかれば、力一杯読みましょう。この読むことは簡単なことではありません。読み方を自分なりに身につけておく必要があります。また読むポイントをある程度定めて読むことは重要です。

資料に物語らせる方法を方法論といいます

読むポイントになる部分は、テーマ、臨床心理の場合は対象者も重要です。また、方法(質問紙、面接など)、道具(尺度など)も外さずに読み込みたいところです。それらを踏まえて、結果や結論を読みこなすと、非常に有意義になります。そして、その上で自分の研究したいテーマに適切な方法論を知ることが必要になります。方法論とは、簡単に言えば「資料に物語らせる方法」です。私たちが勝手に考えて話すのではなく、資料が物語っている事実を代弁するのが私たちの仕事です。そうすると手続きが必要になります。どのような手続きをとれば、資料に語らせられるかはケースバイケースですので一概には言えませんが、過去の研究を見れば、その点については大いに参考になります。
例えば、仏像を資料とした場合、仏像だけじっと眺めても何も起こりません。
材質、形状などなど様々な角度から見たり、文献とつきあわせてみたりすると、時代が見えたり、所有者が見えたり、制作者の技法や当時の権力が見えたりもします。つまり自分がどのような手続きを取り、それをすればどのような事実が見えるようになると考えるのかが、問われることになるのです。

研究方法が定まれば、ゴールは間近です。ここまで見えてくれば、一度立ち止まって、もう一度、何がしたいのか、何を明らかにしたいのか何を調べたいのか、などを再度考えてみましょう。そして、自分の方向性が、うまく他者に説明できる状態になっているかを確認しておきましょう。その上で、どのような調査で、どのような情報を集めるかを決定しましょう。そして、その情報をどのように処理するか(例えば統計など)を確定しましょう。ここまでできればおおむね研究計画はできたと言えると思います。

しかし、実際にはこんなに順調に進むことはほとんどありません。
例えば、「母親の子どもに対するいらだちの感情に興味がある」からスタートしたとします。そこで育児不安を関連項目として見つけます。育児不安を調べてみると、母親の母親としての自己イメージという研究がでます。ああ、それなら自己イメージを調べてみようとなり、調べているうちに、「あれ?」となってきます。「もともと何がしたかったっけ?」となり、「いらだちの感情」と気づくと、ここで、アクロバティックな現象がおこります。いらだちと自己イメージを、裏付けがないまま結びつけようとして、そしてスパイラルにはまり込んだという顛末です。これは、最初に母親の感情に対してどんな疑問文をつくるかが、大事なのですが、そこを飛ばすと、このような現象をおこりますので、注意しておきましょう。当塾では、こういった紆余曲折を一緒に乗り越えながらゴールまで作り上げます。


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