コラム
実は誰でもできる「わからないことがわからない」からの脱出
2023年3月2日 公開 / 2023年3月4日更新
わからないことがわからない
勉強に限らず、ありとあらゆる局面で最も困るのが「わからないことがわからない」です。私たち塾業界の人間にとっても最大のテーマです。よく「わからないことを集中的に質問できます」という宣伝文句がありますが、大人になっても、自分が何がわからないかは、簡単に分かるものではありませんし、ましてや、わからないことを言語化して他人に伝えることは至難です。例えば仕事でも、よく「ほうれんそう」などといいますが、何がわからないかがわかれば、その人はもう仕事をある程度覚えています。その状態になればあとは自分でどうにでもできるのです。そして時間をかけて量をこなし、慣れるということをすれば実はそんなに難しいことではありません。
受験勉強も「わからないことがわからない」から始まる
当塾に来られる生徒さんが、抱えている悩みは、まずは勉強の仕方から「何から始めたらいいのかがわからない」から始まります。臨床心理士指定大学院の受験を決意した場合、特に心理学をこれまで学んだことのない人ならほぼ間違いなく、
「何をすればいいかわからない」
「どこから手をつければいいかわからない」
「わからないことがわからない」
このような状態になると思います。
そして、こういった状態から脱していきたいはずです。教師としっかり関わって、何かヒントを掴み、それを足がかりにさらに何かを見つけ、技術と能力を身につけ、志を持ち、それを元手に進んだ先でさらなる飛躍をとげる。私たちのような塾や予備校の役割はこの点が最も重要だと考えています。
例えば心理学の試験があると言っても、膨大な分量です。公認心理師試験に至っては、幅が広すぎて、途方に暮れる人が多いと聞きます。ブループリントがある分、まだマシですが、このカテゴリーの試験において自分が何がわかっていて、何がわかっていないかを正確に把握することは容易ではありません。そうなると「何から手をつければよいかわからない」ということは誰にでも起こり得ます。だから私たちは、生徒がまず①何がわかっていなくて、②何をわかる必要があって、③わかる(知る)必要のないものは何で、④どうすれば必要のあるものを獲得できて、⑤どこまで知ればわかったと言えるか、このようなことを提示します。そして少なくとも「わからないことがわかった」という状態を少しずつ増やしていきます。そこがわかり、それをさらにわかる必要があると認識すれば、あとはどうすれば良いのかも自ずとわかるのです。
私自身、公認心理師試験を受けるときに、何から始めるべきかが全くわかりませんでした。私は、当然のことながら、当塾の講座以外を使用することを自ら禁じていましたので、とりあえず、主任に、「どの動画から見たらいい?」と聞くと、「そりゃ、公認心理師法系でしょうね」と言うので、そこから始めました。動画を見ているうちに、なぜ彼がそう言うのかが、徐々に分かってきました。一つわかってくると、「次」がおぼろげに見えてきます。私は、迷わず関係行政論でした。要するに、基礎心理で点を取るのは難しいと判断したのです。こんなこと言って良いかどうかわかりませんが、私の場合、仏教のことは、一度読めばある程度頭に残るのですが、心理学はどうも・・・特に基礎心理学は・・うーん・・という感じです。仏教なら、100人の教師の仏教学の授業があるとして、100人ともが「基礎」と考えるトピックは確実にわかります。ところが、心理学は・・オペラント云々が基礎であることはわかりますし、それが次にどう発展していったかも、上っ面ではわかっているつもりですが、まさに上っ面です。当塾の講師のように身体で理解できている人と比べると、遠すぎて・・
となると、やはりスタートラインが同じ法律系から勉強して、そこを足がかりにするのが妥当と判断しました。そうなると一歩前進です。
「自分」を知らねばならない
その意味で、やはり「自分」を知らねば、「わからないことがわからない」からの脱却は難しいのだろうと思います。
理由としてまず挙げられるのは、個人によってしなければならないことが大きく異なるからです。特に学力面は、今に至ったプロセスが全員異なるため、全員スタートラインが異なります。よって、かけるべき負荷も異なりますし、訓練期間も異なります。やるべき教材も異なります。大学受験なら、高校を卒業して間もないことから、それほど人生のプロセスに大きな違いはありません。だから大人数に対してある程度統一したことをしても大きな間違いとは言えません。しかし、大学院受験や編入受験、社会人入試は全員がやらねばならないことが異なるのです。
それでも、まずやらねばならないことで、共通することは、このコラムでも触れたことはありますが、「適切な自己分析」です。適切な自己分析とは、漠然と「私はできない」と考えることではなく、「できること」をリストアップすることから始めるものです。「できないこと」は人間ならばたくさんあり、むしろできないことの方が多いのです。ことさらそれを強調しても何も生まれません。だからまず、「今ある能力」に着目して、どんな些細なことでも(単語一つでも)一つずつ丁寧に書き出してみると、意外にたくさんの自分情報が与えられます。
入門書より辞書
「何から勉強すればわからない」という人が陥りがちなこととして、つい入門書を読みたくなるのですが、あまりおすすめではありません。入門書を最初に見てしまうと、その情報に大きく振り回されてしまいます。そこにある情報が入門で、そうでない情報は入門ではないということになるわけです。それよりも、少々高価ですが、辞書を複数入手して、それぞれ用語をひいてみるのです。そしてわからない専門用語が次々出ると思いますので、それらを全部ひくのです。そしてひいた言葉をノートにメモをしておくのです。ちなみに私は、大きなふせんでした。いずれこれが役にたつことになるのです。インターネット辞書もうまく使えば、大変有益なツールです。
わからないことと向き合う
わからないことと出会ったとき、まずは「わからない」ことをしっかり自覚して、その次に、「わからない」の分析をします。聞いたことはあるけれど、知らないのか、忘れたのか、聞いたこともないのか、多少はわかるのか、誰かに聞けばわかることは知っているのか、世界の誰もが知らない問題なのか。こう考えると、「わからない」もその正体は無数にあります。自分の今の「わからない」がどのような質のわからないのかを正確に知覚することが必要です。そして、最も大切なのは、その「わからない」に対して、好奇心を持ち続けることです。この意味で、好奇心を持ち続けることができれば、例えば、辞書を引くにしても、興味を持続しながら引き続けられます。好奇心が持続できれば、情報収集をします。そうすればそのうちに手がかりが見えてきます。手がかりがあっても、それで入り口に立てるわけではありませんが、自分が一体何に興味を持っているのかはかなり明確になります。そこから疑問を出していくと、入り口に立つことになります。当塾では、このような作業を一緒にやります。興味のあるものを引き出して、どうなったら、おもしろいのかを議論しながら進めていきます。「いつか自分が解明してやる」そんな気概を持てるように指導していきたいと思っています。
わからないことは専門家に聞く
わからない時には、まずは専門家を頼りましょう。専門家がわからないことは、素人にはまずわかりません。わかってきたことは、論文で発表されていますが、ほとんどが英語ですので、容易に私たちのところにきてくれるものではありません。この場合、私たちは「わからないことがわからない」状態であることを自覚し、ただし、「自分だけではなく誰もわからない」ということも併せて自覚します。こういった時に強引な判断やわかったふりをすることは、場合によっては命に関わるリスクを負うことになりますので、慎重な姿勢を保つことが大切です。やってはいけないことは「決めつけ」「思い込み」「希望的観測」「詭弁」「嘘」です。わからないことがわからない時は、できることはとても限られます。それよりもやってはいけないことが増えるのです。不自由を感じますが、やってはいけないことを回避しつつ、どこまでわかってきたかを探りつつ、打ち手ができるまで慎重な姿勢を保つということが大切です。
以上の作業は、偏差値も学力も関係ありません。誰でもやろうと思えばできることです。
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