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コラム

資料によって異なる対訳 なぜ起こる? 色彩編(1)

訳語調べ&情報収集

2015年4月12日 / 2015年4月13日更新

色に付随する用語には、辞書やネット上での訳語がわれているものがいくつかあります。
「なぜ」そういうことが起こるのか。その背景を探ってみました。

【現状】
主なものを拾います。(コトバンクやWeblioは検索結果の一部です。)
■色相
ほとんどの資料でhue。
英辞郎:color phase, hue
Weblio
  日本河川協会 和英河川・水資源用語集:hue; tint

■彩度
コトバンク
  ブリタニカ国際大百科事典:→「飽和度」 saturation
  世界大百科事典 第2版:saturation
英辞郎:chroma, chromaticness, colorfulness, intensity, saturation
Weblio
  研究社 新和英中辞典:chroma
  日本河川協会 和英河川・水資源用語集:chromaticness; colourfulness; chroma; Saturation; colorfulness
  DBCLS 学術用語英和対訳集:saturation; chroma
  JST 科学技術用語日英対訳辞書:saturation; chroma

■明度
コトバンク
  ブリタニカ国際大百科事典:luminosity
  世界大百科事典 第2版:lightness
英辞郎:brightness, luminance, brilliance, color value, intensity, lightness, lightness value, luminosity, luminosity value
Weblio
  研究社 新和英中辞典:〈色の明るさ〉 brightness; 【形式ばった表現】 luminosity.
  日本河川協会 和英河川・水資源用語集:brightness; lightness; Intensity; value
  DBCLS 学術用語英和対訳集:lightness; value; luminosity
  JST 科学技術用語日英対訳辞書:lightness; brightness of color; value of color; value; shade
  情報通信研究機構 EDR日英対訳辞書:brightness

■輝度
コトバンク
  ブリタニカ国際大百科事典:brightness
  世界大百科事典 第2版:luminance
  日本大百科全書:luminance
英辞郎:brightness,luminance, brilliance
Weblio
  研究社 新和英中辞典:brightness.
  DBCLS 学術用語英和対訳集:luminance
  JST 科学技術用語日英対訳辞書:brightness; luminescence; intensity; luminance

■光度
コトバンク
  プログレッシブ和英中辞典 第3版:luminous [light] intensity
  ブリタニカ国際大百科事典:luminosity、magnitude、luminous intensity
  世界大百科事典 第2版:物理学の光度luminous intensity
英辞郎:brightness, luminance, brilliance, an intensity of light, light intensity, luminosity, luminous intensity
Weblio
  研究社 新和英中辞典:luminous intensity, luminosity, (the degree of) brightness
  DBCLS 学術用語英和対訳集:luminous intensity
  JST 科学技術用語日英対訳辞書:light intensity; luminous intensity; luminosity

---------------
以上の結果を、英単語のほうから区分します。
  brightness:明度、輝度、光度
  chroma:彩度
  hue:色相
  intensity:明度、輝度、光度
  lightness:明度
  luminance:輝度
  luminosity:明度、光度
  saturation:彩度
  value:明度

brilliance, color value, lightness value, luminosity value, color phase, tint, brightness of color, value of color, shade, chromaticness, colorfulness, luminescenceについては掲載資料数が少ないため、ひとまず除外しました。
以下の検討の中で、必要に応じて取り上げます。

---------------
【周辺情報】
色の世界には、「表色系(color system)」「色空間(color space)」というものがあります。
主なものをあげると、以下のとおりです。

◆マンセル表色系(Munsell color system):米国人画家が生み出した体系。
  →修正版が日本ではJIS規格 Z 8721「色の表示方法-三属性による表示」で用いられている。
◆オストワルト表色系(Ostwald color system):ドイツ人科学者が生み出した体系。
◆CIE表色系:国際照明委員会(Commission internationale de l'éclairage)で定める表色系。

◆RGB:赤 (red)、緑 (green)、青 (blue) の光の三原色を混ぜて色を表現。
◆CMY:シアン(cyan)、マゼンタ (magenta)、イエロー (yellow) で色を表現。
◆HSV:色相、彩度、明度からなる色空間。主にコンピューターグラフィックス用。

---------------
【調査結果と考察】
■色相
マンセルシステムでは、色彩を三属性(色相、明度、彩度)で表現しています。
Googleの画像検索でマンセル 立体と検索すると、分かりやすい図が出てきます。
このマンセルの三属性はhue, value, chromaです。HSVは、hue、saturation、valueの頭文字です。

一方、冒頭にあげた中で日本河川協会の用語集にtintが出ていますが、(hueで表現される)色彩に白を加えたものがtint、黒を加えるとshade、白と黒つまり灰色を加えるとtoneになるようです。
[参考]
What's the Difference between a Hue, Tint, Shade and Tone ?
Tints and shades

「色合い」という日本語に対して、tintの訳語が使われていることがよくあります。
でも、場合によっては白を足す方向だけに限定される可能性を否定できないということです。
(tintについては、別の機会に改めて扱います。)

もうひとつ、英辞郎にcolor phaseもあります。
『Dictionary of Video and Television Technology』という書籍の144ページ「hue」の項目に「Also called color phase or tint」と記載があり、テレビ・ビデオ分野ではtinを含めて同義とする場合もあり得るようです。

かたや『CCTV: From Light to Pixels』の551ページには、「The timing relationship in a video signal that is measured in degrees and keeps the hue of a color signal correct」とあり、hueとは別扱いです。

★考察★
hue, tint, color phaseのいずれも誤りではなく、多くの場合は意味が異なるようです。

参考までに、調べた中でhueの意味での色相が最初に出てきた和書は、矢野道也 著『絵の具製造法』(明治37年)で、408ページに「色相(Colouor ov Hue)」とあります。(ovはタイプミスではなく、このように印刷されています。)
おそらく、もともと翻訳によって生まれた言葉なのでしょう。
それはビデオの世界も同じかもしれません。
いわゆる色相との混同を避けるためか、ビデオ用語として「カラー位相」という表現も見つかりました。

純粋に色彩としてみたときの英語の表現は、表色系/色空間の体系を問わずHUEで良さそうですが、それ以外の「色相」を英語に翻訳する場面では、内容の確認が不可欠だろうと思います。

■彩度
主にchromaとsaturationで割れています。
上述のようにマンセルはchroma、HSVだとsaturationですが、もう少し調べてみました。
以下、『Dictionary of Video and Television Technology』 (ISBN 1-878-70799-X)からの抜粋です。

----引用ここから
chroma 1. Indication of degree of color saturation. [中略] 2. The dimension of the Munsell system of color that corresponds most closely to saturation, which is the degree of vividness of a hue. Chroma is frequently used, particularly in English works, as the equivalent of saturation. [以下略] p.49

HSL A computer imaging term. A color model based on hue, saturation, and luminance. [中略] In this model, saturation refers to the strength, or purity, of the color. [以下略]

HSV A computer imaging term. A color model based on hue, saturation, and value. [中略] In this model, saturation specifies the amount of black pigment added to or subtracted from the hue. Value identifies the addition or subtraction of white pigment from the hue. p.144

saturation 1. In color perception, the degree to which the light energy is confined to a narrow frequency band. [中略] The difference between pink and red is one of saturation. [以下略] p.241
----ここまで

冒頭にあげた辞書訳には chromaticnessやcolorfulnessも混じっています。
このうち前者は、スウェーデン工業規格のNCS(Natural Color System)表色系で使用されています。
そしてWikipediaの「彩度」の項には、次のような説明がありました。

---引用ここから
英語での名称は、HLS色空間、HSV (HSB) 色空間、PCCSではsaturation(Sと略す)、マンセル表色系ではchroma だが、日本語では区別せず彩度という。ただしsaturationについては飽和度という訳語が使われることもある。また、純色量と訳されることもあるNCSのchromaticness、オストワルト表色系のpurityも彩度と同種の概念である。
---ここまで

ここでは同種の概念であると書かれていますが、近いというだけで厳密には異なるようです。
たとえばGoogle Books
 chromaticness chroma
 colorfulness chroma
などと検索すると、違いがわかります。
特に後者の検索条件では、colorfulness、chroma、saturationの違いを明確に説明した資料もいくつか出てきました。

★考察★
マンセルは米国人ですから、chromaに「彩度」が用いられているのは、おそらく翻訳由来でしょう。
彼が『A Color Notation』を記したのが1905年、これを米国光学会が修正した修正マンセル表色系が1943年に作成されており、日本で「彩度」という語が論文等に登場するのは1950年代で、時期的にも合います。
それより古い資料では、「色の飽和」というものがあるだけで、彩度は見つかりませんでした。
もっと丁寧に探せばあるかもしれませんが・・・。

そしてHSLやHSVなどの色空間の誕生は、マンセルよりずっとあとのことです。
こちらも海外で生まれたようで、日本語に翻訳する際にsaturation=彩度としたのでしょう。
(上記のWikipediaに飽和度という「訳語」が使われることもあると書かれているように、翻訳語の可能性が高いです。)

chromaticnessやcolorfulnessを含め、「彩度」を英訳する場合も、具体的に何を示しているのか確認する必要がありそうです。

明らかに分野が異なれば、同じ日本語に異なる訳語が適切だというケースは普通にあります。
でも、色彩関係は、同分野でひとつの日本語に複数の英語が(少しずつ違う意味で)存在するため、結果として、オンライン辞書などでは多くの対訳語が列挙されることになっているようです。

長くなりましたので、続きは後編で。

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資料によって異なる対訳 なぜ起こる? 色彩編(2)

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