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コラム

政府の権利 珍訳・迷訳の原因は?

特許明細書

2015年2月20日 / 2015年3月15日更新

ときどき、英文明細書の冒頭に「Government Rights」の記載がなされていることがあります。
発明(の少なくとも一部)が政府(の執行機関等)との契約によって助成され、その代わりに政府が一定の権利を保有することを示したくだりです。
日本語に翻訳された公報で、制度を理解していれば絶対に出てこないであろうという誤訳・珍訳・迷訳が散見される、典型的な例のひとつでしょう。

■supported by Grant No. XXX from NIH
× NIHから授与された認可番号○○の下に政府援助を受けて
 →「番号のもとに」助成がなされることはなく、その番号は授与されるものでもないのでは?
この類の訳は非常に多いです。助成金の訳がおかしいこともあり、意味不明ですね。
No.(あるいはNumber)を「第○号とするだけでもだいぶ違うのに・・・。

■The Government may have a significant interest in this invention.
× 政府は、本発明に関して大きな感心を寄せているのであろう。
 →感心の問題?関心の誤記?・・・・利害関係あるいは利権の意味では?
法律用語で「right, title and interest」と並ぶとき、「権利、権原、利益」となる用法と同じだと思います。

■This invention was made under contract awarded by NIH, Contract Number XXX.
× 本発明は、NIHによって授与された契約(契約番号○○)の下でなされた。
 →契約が授与されるということが、ある?

助成金の拠出は award (a grant)で表現されることがありますので、これを指しているのでしょう。
このawardは、「認められた」「許諾された」などの珍訳になっている例も見られます。
「国立科学財団に授与された契約番号XXX」という具合に、契約主まで変わってしまっていることも。
「陸軍研究所より得た契約書番号XXX」など、「契約書」と「契約」が区別されていない例や、「コントラクト」とカタカナにしてしまっている例など、多々・・・。

■government support from the US Army Medical Research and Material Command
× 米国陸軍医学研究及び材料司令からの政府支援を受けて
 →司令が支援をする?
こうして固有名詞が適当な単語の羅列になっているケースは、よく見かけます。

■The U. S. Government may retain certain rights in the invention.
× 米国政府は、本発明における確実な権利を保持し得る。
 → 確実な権利?「一定の権利」では?

以下、この記述についていくつかあげていきます。
まず、米国審査便覧(MPEP)608.01(a)に出願書類に記載すべきことが規定され、その中に、
  Statement regarding federally sponsored research or development
  (合衆国政府の助成による研究または開発に関する陳述)
が含まれています。
国際出願であればPCT/US~という出願番号がついているなど、少なくとも米国に関しては、「Goverment Rights」は上記の規定に基づいて記載される項目です。

書き方そのものに関しては、MPEP§310「Government License Rights to Contractor-Owned Inventions Made Under Federally Sponsored Research and Development」に、次のように規定されています。

Where a Government contractor retains U.S. domestic patent rights, the contractor is under an obligation by virtue of 35 U.S.C. 202(c)(6) to include the following statement at the beginning of the application and any patents issued thereon:
“This invention was made with government support under (identify the contract) awarded by (identify the Federal agency). The government has certain rights in the invention.”

If reference is made in the first sentence(s) of the specification following the title to prior copending applications of the applicant (37 CFR 1.78(a) and MPEP § 211 et seq.), the above “Government License Rights” statement should follow immediately as the second paragraph of the specification.

If there is no reference to an earlier application, the “Government License Rights” statement should appear as the first paragraph of the specification. See 37 CFR 1.77.

これが、Government Rights表示の根拠です。
次に、それが具体的に何を意味するのかという部分について。

Federal Acquisition. Regulations(連邦調達規則)に、政府が助成する際の基準と、それに対する見返りなどが細かく規定されています。
ようするに、お金を出す代わりに、その特許の使用権など、一定の権利を得るというようなことですね。
そしてその契約は「誰と」結ぶのかというと、政府の執行機関が多いようです。
明細書によく出てくる国立衛生研究所も、そのうちのひとつです。

参考:政府組織一覧

まあ、トラブル(?)もあるようで、こんな話を見つけました。
---ここから
近時の米国判例の下では、米国連邦政府の執行機関、例えば、国立衛生研究所(NIH)・・・・といった機関との間に契約を締結した非営利組織及び小規模会社は、当該契約の各条項を完全に遵守しない限り、 当該契約の下に生じた発明に対する権利の全てを米国連邦政府に取り上げられるおそれがある
---ここまで(対米国政府契約における受託業者の報告義務:不注意者を待ち受ける罠
 
いずれにしろ、連邦政府(の執行機関)との間で契約を締結し、それに基づいて研究開発に助成がなされる。この助成を受けている出願は、明細書の冒頭に明記されている、ということです。

ここまでくると、当然に、日本はどうなの?というのが気になりますよね。
そこで、「Government Rights」相当のルールが日本にあるのかどうか、特許事務所に勤務する人に聞いてみました。
この問いの結果、分かったこと。
そもそも米国での表記は、「The Bayh-Dole Act」の要請によるものだそうです。
そして日本にも、「日本版バイドール法」と呼ばれるルールがあるとか。

こうして得た情報に基づいて公報全文検索をしてみたところ、見つかりました。
例)
再表2008/081568
本発明は、国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度文部科学省、科学技術振興調整費、産学官共同研究の効果的な推進「未利用微細藻からの有用化学素材の探索と開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの) に該当するものである。

特開2008-255348
本発明は、「平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」(旧「平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願」)である。

特開2009-287011
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】
(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「マスク設計・描画・検査総合最適化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願

ここから分かるように、少しずつ書き方が違います。
それは米国のGovernment Rightsも同じですが、単に字面を追うだけでなく「意味をきちんと理解して」翻訳すれば、少なくとも既存公報のような珍訳になることは、有り得ないと思いますよ。

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