成果主義の功罪と望ましい報酬のあり方
1969年日経連(現・日本経済団体連合会)が能力主義人事を標榜して以降、大企業を中心に職能資格制度が普及した。それまでの年功主義的な人事制度と異なり、職務遂行能力に基づいて従業員をランク付け(格付け)するもので、能力主義的人事制度としての色彩が強い。
しかし、バブルが崩壊して以降、成果主義が強まる中、職能資格制度に対する批判が高まったり、その見直しを図ったりする企業が増え始めた。昨今のジョブ型雇用の普及がそれに拍車をかけている。そこで、今回は職能資格制度の効用と限界を明らかにするとともに、改善の方向についても言及していきたい。
職能資格制度の効用としては大きく3つ挙げられる。まず1つ目は、「資格と職位の分離」である。日本の人事制度は組織上の偉さと能力による二重のランキングシステムをとっており、職能資格制度においても同様の仕組みが採られている。つまり、組織上の偉さを表す職位と能力のランキングを表す資格とが分離されている。職能資格制度においては、資格が上がる昇格が優先し、職位が上がる昇進と区分することでダイナミックな組織運営を可能にしている。
ポスト不足や役職昇進速度の鈍化にも対応でき、オイルショック後の減速経済下における組織のスクラップアンドビルドが可能になった。これが大企業中心に職能資格制度が普及した大きな要因である。
2つ目は「人事制度としてのトータル性」である。職能資格制度を人事制度の根幹に据え、人事評価制度、能力開発、能力活用(配置・異動)、賃金制度(職能給)の4つのサブシステムが効果的に連動するような形で設計・運用されている。これにより人事制度としての完成度が高まる。
3つ目は「公平性の確保」である。職能資格制度は、職種横断的な等級定義と能力の統一項目(知識・技能/理解・判断力/企画・立案力/表現・折衝力/指導・育成力)をうまく活用することで、部門間や職種間の違いを極力排除することで、従業員間の公平性を担保している。また、等級定義や統一項目による能力の抽出は制度設計・導入の簡便性も高めている。
こうした効用をもつ職能資格制度であるが、いくつかの限界も露呈し始めている。限界の1つ目は「年功的運用に陥っている」点である。職能資格制度で評価する能力は潜在的能力としての色彩が強いため、ややもすると年功的運用に陥りやすい。その結果、賃金が上昇し、担当する仕事や生産性との乖離現象が起き、経済的合理性が失われてしまう。
さらに、職能資格制度は、従業員の多様なキャリア志向や求められる人材像に対応できていない。等級定義からも分かるように、下位等級から上位等級への内部昇進制を土台としているため、管理職育成にむけた単一的なキャリアパスからなる人事制度となっている。
最近では、若年層において組織観や職業観が大きく変化しており、スペシャリスト、プロフェッショナル志向の人が増えている。グローバルレベルでのナレッジ競争が激しくなり、企業もそうした人材を求めている。職能資格制度においても何らかの対応が求められる。
こうした従業員のキャリア志向や求められる人材像の変化に応えるため、今後の職能資格制度にはスペシャリスト、プロフェッショナルの育成に向け、人事管理の複線化を進めることが必要不可欠である。年功的運用から脱却するためにも、役割給の導入や成果と連動した時価主義的賃金への移行も求められよう。