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弁護士コラムvol.175 「不動産所有権は放棄できるか」 松浦 亮介

2018年5月11日 公開 / 2019年3月18日更新

テーマ:弁護士コラム/不動産

不動産所有権は放棄できるか


山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介
 固定資産税や管理の負担が嫌なのですが、不動産を放棄できますか?――。
 最近では、不動産も、ものによっては財産どころかむしろ重荷にしかならないというケースも少なくなくなったようです(「負動産」などという言葉も聞きます)。「負動産」を放棄することができるでしょうか。

・一般論としては放棄できるはずだが……
 この点、民法には明示的な条文はありませんが、もともと権利の放棄は自由と考えられていたため条文化の必要がなかったという経緯もあるようで、不動産所有権の放棄は可能と考えるのがひとまず自然です。
 ですが、そこは、観念的な権利に過ぎない債権等とは違って、不動産所有権は放棄してもその不動産自体が物理的になくなるわけではないことから、現実的な制約がかかることになります。

・裁判例――権利の濫用で制限――
 松江地方裁判所平成28年5月23日判決(控訴審の広島高裁松江支部平成28年12月21日判決もこれを維持)がこの問題を正面から扱っています。土地所有者が土地所有権を放棄したとして国への所有権移転登記手続きを求めたというなかなか興味深い事案です。国が相手方として出てくるのは、民法の規定で所有者がいない不動産は国の所有になることになっているからですが、この裁判の争点は、この規定の適用の前提である「所有者がいない」という状態にするための所有権放棄が認められるかどうかでした。
 判決は、原告(土地所有者)による所有権放棄は土地についての負担・責任を国に押し付けようとするもので権利の濫用に当たり許されないと結論付けています(原告が土地を所有するに至った経緯・動機のほか、国が財産的価値の乏しい土地の管理に多額の経済的負担を強いられることなどが指摘されています)。
 ※なお、「権利の濫用」については、本コラムVol.160もご参照ください。

・「負動産」の放棄はできません
 上記裁判例のケースは、原告の所有権放棄の経緯にやや特殊性があり(所有権放棄するためにあえて父親から生前贈与を受けたとされてます)、これが濫用性を強めています。
 しかし、不動産所有権の放棄によって負担・責任を国に押し付けるというのは、放棄を検討するような不動産のほとんどに当てはまると思われます。権利の濫用は具体的な事情に照らしたケースバイケースの判断ではありますが,裁判例のケースのような特殊な経緯がなくても、不動産所有権の放棄は多くの場合「権利の濫用」と評価されることになるのではないかと思います。
 逆に言えば、現実離れした仮定ですが、通常であれば放棄されることのないような財産的価値のある不動産であれば、所有権を放棄しても権利濫用とはされず、放棄が認められるはずです(そのようなケースでは、国も喜んで所有権を引き受けるはずなので、そもそも争いにならないでしょうが)。
 冒頭の問いへの基本的な回答は,「『負動産』の放棄はできません」ということになりそうです。
 

 以上、最近相談の多い不動産所有権の放棄について簡単に述べました。不動産についてお困りのことがあれば当事務所へのご相談をご検討ください。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介   (広島弁護士会所属)

弁護士  松浦 亮介のプロフィール

■山下江法律事務所HP「不動産トラブル」

■弁護士コラムバックナンバー【不動産】
・vol.148 「自分の土地に知らない人が住んでいる」 粟井良祐 2017.4.14
・vol.91 「借家からの立ち退きを求められた場合に」 粟井良祐 2015.1.9
・vol.54 「家賃滞納で困っています。」 稲垣洋之 2013.7.19
・vol.53 「建物を人に貸すときに注意すること」 柴橋修 2013.7.5
・vol.3 「不動産の二重譲渡と登記」 稲垣洋之 2011.7.15
・vol.2 「不動産賃貸借トラブル」 柴橋修 2011.7.1

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