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弁護士コラムvol.160 「『権利の濫用』とは」 松浦 亮介

弁護士コラム/いろいろ

2017年9月29日 / 2018年11月13日更新

『権利の濫用』とは


山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介
 民法には「権利の濫用」という考え方があります。第1条3項が「権利の濫用は,これを許さない。」という厳めしい表現で規定しています。大雑把に言うと,権利者による権利行使であっても許される限度を超えるような行き過ぎた権利行使は認められない,ということになります。
 では,どのような場合に行き過ぎた権利行使として権利の濫用になるのでしょうか。条文の「権利の濫用」という言葉のみでは分かりませんので,ケースごとに様々な事情を踏まえて判断されていくことになります。


・宇奈月温泉事件
 ここでは,宇奈月温泉事件という有名な事例を簡略化して紹介します(大審院昭和10年10月5日判決)。
 【事実関係】
 遠方の源泉から温泉街へ湯を引いてくるために敷設された引湯管(約7.5キロメートル)があったが,引湯管の敷設者Yは,引湯管の敷地のごく一部分(約2坪)について,敷地の利用権設定を受けていなかった。このことを知ったXが,その敷地を敢えて購入し,Yに対して,引湯管を撤去するか,その敷地を含む周囲の荒れ地を時価不相応な巨額で買い取るように求めた――

 上記のようなケースで,大審院(いまの最高裁)は,概略つぎのように判示してXの請求を「権利の濫用」と断じました(X敗訴)。
【裁判所の判断】
 Xの行為を全体的に評価すれば,専ら不当な利益を得る目的で所有権をその道具として用いているに過ぎないから,社会観念上,所有権の目的に反しており所有権の機能として許されるべき範囲を超えており,権利の濫用に他ならない。

 Xの利益(所有権が制約されていることによる損失),Yの利益(引湯管撤去によって被る損失)との客観的な比較(Yの方が圧倒的に大きく重要)と,Xの内心の問題(権利主張が社会的・道義的に不当な目的でなされていること)との両方が考慮され,権利の濫用と評価されたものといえます。


 このように民法の基本原則として機能している「権利の濫用」ですが,本来は当然認められるはずの権利者による権利行使を認めない,という,いわばルール外のルール,ウルトラCですので,実際の争いの中でそうそう簡単に認められるものではない,ということは述べておかなければなりません。
 訴訟で「権利の濫用」を持ち出さないといけないとすると,万策尽きた後,敗色濃厚な中での藁を掴むような主張であることが通常です。
 それでも,「権利の濫用」が認められたケースは宇奈月温泉事件の他にもたくさんありますので,ケースによっては,適切に「権利の濫用」の主張をすべき場合があることも間違いありません。
 トラブルに巻き込まれて,判断に困ったら,一度当事務所にご相談ください。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介   (広島弁護士会所属)

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