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弁護士コラムvol.103 「嫡出推定と法律上の父子関係」 松浦亮介

弁護士コラム/相続・遺言

2015年7月10日 / 2018年9月21日更新

山下江法律事務所 弁護士 松浦亮介

嫡出推定と法律上の父子関係

 DNA鑑定によって夫Hと子どもCは生物学上の親子ではないことが明らかになった――。このようなことが現実に起こったとき,法的にはどのようなことが想定されるでしょうか。今回は,法律上の実子関係(特に父子関係)を取り上げてみます。キーワードは「嫡出推定」です。
 説明の便宜上,婚姻関係にある夫H・妻W,Wが出産した子C,Wの不倫相手(Cの生物学上の父)Lとします。

1 母子関係
 法律上の母子関係は,分娩(出産)の事実によって当然に生じるとされています。WがCを出産したという事実によって,法律上もWとCの母子関係が認められるもので簡明です。生殖補助医療の発展により代理出産など複雑なケースも出てきていますが,現在のところ,卵子提供者と子との法律上の母子関係は認められていません(最決平成19年3月23日判タ1239号120頁)。

2 父子関係
(1)嫡出推定
 一方,自ら出産することのない男性については,生まれた子の父が誰かは母子関係ほど単純には判断できません。
 この点,法は,原則として,婚姻中に妻が妊娠した子の父は妻の夫であると推定してそのように扱うことにしています。民法772条の「嫡出推定」の規定がそれです。この子を「嫡出子」といいます。
 民法第772条
  第1項 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
  第2項 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
 嫡出子ではない子,典型的には婚姻関係にない男女間に生まれた子については,法律上の父子関係は「認知」という手続を行うことによって生じます(民法779条以下)。
 冒頭の例では,夫Hと妻Wは婚姻関係にありますので,WがCを妊娠したのが婚姻期間中であれば,上記の嫡出推定(第1項の推定)を受けて,Cの父はHと推定され,原則としてそのように扱われます。妊娠時期が判然としない場合のために第2項の推定が設けられており,婚姻後200日経過後又は離婚等から300日以内に生まれた子は婚姻期間中に妊娠されたと推定される結果,第1項と第2項の推定が合わさって夫の子と推定されることになります。ただし,あくまで推定ですので,医学的に妊娠時期を明らかにできれば第2項の推定を覆すことは可能です。例えば,WがCを出産した時期が離婚から280日目だったとしても(この場合,第2項の推定を受けます),その妊娠時期が離婚後であることを医学的に証明できるなら,その推定は覆されるので,嫡出推定は働かず,Hを父としない非嫡出子としての出生届が可能です(その後LがCを認知すればLとCの法律上の父子関係が生じます)。
 他方,妊娠時期が婚姻中の場合は,嫡出推定を排除できないため,Cの法律上の父はHと扱われます。仮にWがHを父としない出生届をしたいと思っても,このような届は受理されません(そのため出生届の提出自体がされず,無戸籍の子が生じる原因になっていると指摘されています)。

(2)父子関係を争えるか?――嫡出否認――
 さて,冒頭の例に戻ると,HとWは婚姻関係にあるため,WがCを妊娠したのが婚姻期間中であれば,嫡出推定を受け,たとえ,生物学上の父がLであったとしても,HがCの法律上の父として扱われます。
 では,後日,DNA鑑定によって真実を知ったHは,Cとの法律上の父子関係を否定できるでしょうか。妻W,子C或いは生物学上の父Lが法律上の父子関係を生物学上の父子関係と一致させたいと願ったとき,それは叶うでしょうか。
 嫡出推定が働く場合,民法は,夫Hにのみ,父子関係を否定する方法を認めています(民法774条以下)。嫡出否認という手続で,Hがこれを希望する場合は,Cが生まれたことを知ってから1年以内に手続をとる必要があります(期間経過後は父子関係を否定することは認められていません。最判平成26年7月17日判例集未登載)。
 逆に言うと,嫡出推定が働く場合,W,C,Lらから,HとCの法律上の父子関係を否定する方法は認められていません。たとえ,DNA鑑定で,生物学上はCの父はLであることが立証できたとしても,これは変わりません(最判平成26年7月17日裁時1608号6頁は,DNA鑑定があり,しかも,HとWは既に離婚し,現在はW・L・Cが生活を共にしている,というケースで,CからのHとCとの父子関係不存在確認の訴えを不適法として却下しています)。
 ここで「嫡出推定が働く場合」との前提が重要になってきます。嫡出推定が働かない場合(例えば,妊娠が分かった後に婚姻したケースや,婚姻期間中に妊娠したものの妊娠時期にHとWが既に別居していて全く夫婦間の交流がなかったケースなど)には,たとえ,出生時にHとWの嫡出子として出生届がなされていたとしても,父子関係を否定するために嫡出否認の手続による必要はなく、父子関係を否定できるのがHのみという制限もありません。ここでは,H,W,C,Lの全員が,いつでも,HとCの父子関係を否定することが可能です(親子関係不存在確認の訴えなど)。
 
 以上,今回は,嫡出推定をキーワードに法律上の父子関係について簡単に述べました。嫡出子か非嫡出子かという問題については,平成25年に最高裁が相続分の差について違憲との判断を示し(最大決平成25年9月4日民集67・6・1320),その後,国会による民法改正で是正されました。しかし,父子関係自体が争いになるような場面では,嫡出子か否か,嫡出推定を受けるか否か,によって生じる違いはなお決定的に大きなものがあります。
 今回詳しくは説明できませんでしたが,嫡出推定が働くかどうかという点については細かな具体的な事実関係によって判断されるものですので,万が一,冒頭のようなことがあなたの身に起こった場合には,一度,当事務所へ相談してみてください。


 執筆者:山下江法律事務所 弁護士 松浦 亮介 (広島弁護士会所属)

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