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発信者情報開示の在り方に関する最終案について

2021年1月12日 公開 / 2021年1月17日更新

テーマ:インターネットに関する法律問題

コラムカテゴリ:法律関連

インターネットの情報流通の広がりの中で、芸能人やスポーツ選手の方に対する名誉棄損の報道などから、特にインターネット上のSNS関連で書き込みをしたい人の情報開示に関する早急な対応の必要性が言われるようになりました。それを受けて、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が昨年(2020年)11月に最終とりまとめ案を公表しました。早めれば今年にも法制化される予定になっていますが、現時点での方向性について取り上げます。

発信者情報開示請求の意義と制度の問題点は?



 今回の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の最終とりまとめでは、発信者情報開示の実務の現状について指摘されています。この、「発信者情報開示」というのは、最近はニュースなどで取り上げられるようになってきた言葉ですが、情報の流通に関与するプロバイダによる適切な対応を促進するために設けられた「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」で定められているものです。

特にここ最近では、スマートフォンの普及で、Facebook、YouTube,インスタグラムなど様々なSNSが出てきており,それを利用した発信者の投稿による名誉棄損やプライバシー侵害といった被害が増えてきています。しかし、こういった書き込みは匿名で行われることが多く、被害を回復しようとしても、まずは書き込みをした人が誰か特定をし、その特定された情報に基づき、書き込みの削除を求めたり、損害賠償を請求したりするという流れになります。この手続きの流れの中で,書き込みをした人物の情報の開示をプロバイダに求める手続きが、プロバイダ責任制限法での発信者情報開示請求によることになるのです。

 この発信者情報開示請求ですが、今の法制度では以下のような問題があると指摘されていました。

⑴発信者を特定できない場面が増えていること

 ここ最近、投稿したときの情報(IPアドレスなど)が記録されたり保存されない形式のプロバイダが増えることで、投稿したときの情報から辿って発信者を特定できない場合が増えているという指摘がありました。また、書き込み後すぐに名誉棄損などにあたる投稿に気付く場合や、プロバイダの開示手続きに時間がかかるケースでは、投稿者がアクセスしたときに残る情報(IPアドレスなど)のログが請求される前に保存期間の経過で消えるケースがあるといった問題点が指摘されています。

⑵ 発信した者を特定するための裁判手続きが負担である

 発信をした人が誰か特定する手続きを取るにあたっては、実際に投稿内容が被害にあったという方の権利を侵害しているかが問題になります。しかし、内容が明らかに名誉棄損やプライバシー侵害にあたる場合であれば判断しやすいのですが、意見なのかが問題になる場合等、判断が難しいことも多いとされています。そのため、権利侵害が明白のような場合でも、投稿者からの損害賠償請求等を恐れてプロバイダ側が発信者情報を裁判でなく開示する場合は限られているとされています。

 そうなると、被害にあったと主張する側が、発信した者を特定するため、書き込みをされたコンテンツプロバイダ(デジタル化された情報を提供するプロバイダ業者のことを言います。)への仮処分の申し立て、その後投稿者がアクセスプロバイダ(ユーザーにインターネット接続サービスを提供する業者をいいます。)に裁判を起こし、プロバイダの契約者の情報開示を求めるという2回の裁判手続き(場合によっては3回以上とる必要が出て来ます)を行うことを要します。この裁判手続きは費用や時間もかかることから、被害者側にとっては大きなハードルになっているといえます。



研究会の最終とりまとめのおおまかな内容は?



 上記のような現行法での発信者情報開示制度の仕組みの問題点などを踏まえ、今回の最終とりまとめでは見直しを図っています。それにあたっての基本的な考え方としては、被害に遭われたとする方の救済をどのようにスムーズに図るかという点を考えつつ、適法な情報配信を行っている投稿者の表現の自由やプライバシー保護、通信の秘密をいかに確保するかという点のバランスが重要になります。今回の最終とりまとめにあたってもその点を踏まえた制度設計になるようにと検討されています。

 最終とりまとめでは大きく分けて二つの方向性が示されています。

 一つは発信者情報の開示対象の拡大についてです。現在中間とりまとめでは電話番号について追加で開示対象にする話になっており、既に令和2年8月に省令で改正されています。今回はそれに加えて、ログイン時の情報を追加する方向で検討されています。「ログイン時情報」とは,たとえばfacebookでもそうですが、ログインするにあたりユーザーIDやパスワードを入力することでログイン・投稿できるといったタイプの場合、そのログインのときに入力する情報のことを指します。こういったタイプのサービスで権利侵害が起きた場合、発信者の特定にあたり、ログインの際のIPアドレス、タイムスタンプという情報を開示するようにも求める例があります。こういったタイプについては、プロバイダ責任制限法が出来たときには想定しておらず、裁判例も分かれていました。

 そのため、今後「ログイン時情報」についても開示対象とするかどうかなどを検討することとしているのです。なお、開示にあたっては投稿のときの通信とログイン時の通信が同一の発信者であること、投稿時情報のログを保有していない場合に例外的に認める、発信者の特定に必要最小限度のものに限定すべきという条件を付けてとするように、とされています。

 二つ目は新たな裁判手続きの創設と特定の通信ログを早期に保全する仕組みについてです。

 前述のように、これまでの仕組みでは、裁判外で発信者情報が開示されないと、コンテンツを提供するプロバイダに発信者情報開示仮処分申し立てをして、その後契約しているアクセスプロバイダに発信者情報開示請求を求め、投稿したものを特定してから損害賠償請求などを行う、という三段階の手続きが必要でした。

 この制度が前述のように時間的・費用的な面で被害者にとっては負担になること、時間がかかり肝腎な情報が残っていない場合があるなど弊害があるため、現在の裁判制度に加え、それとは別に迅速な解決を図れる仕組みを新たに設けることが提案されています。これは一つの手続きで発信者を特定できるようにするもので、具体的にはコンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダなどに対する発信者情報開示命令・コンテンツプロバイダが持つ権利侵害に対する発信者情報を被害者には秘密にしたまま、アクセスプロバイダに提供する命令、アクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダから提供された発信者情報を踏まえ権利侵害に関する発信者情報の消去を禁止する命令、の3つを同時並行で進められるとすることで、ログの早期保全,発信者の住所や氏名などの保全もできるようにするというものです。なお、この手続き(裁判よりも簡易迅速な手続きで、裁判所が後見的に介入して処理するということで「非訟手続き」によるとされています)で開示決定が出た場合でも,不服があればプロバイダは異議申し立てにより通常の裁判にすることも可能となっています。



 具体的にはこの最終とりまとめを踏まえた今後ということになります。この最終とりまとめでも触れられていますが、専門性の高い分野ということもあり、今後の事例の積み重ねやノウハウ共有などによりさらに検討・見直しがされていくものになると思いますので、引き続き注目する必要があるでしょう。


由加山蓮台寺の狛犬
 こちらの狛犬は昨年夏に訪れました由加山蓮台寺のもの。しっぽが立っているのが印象的です。今年は初詣でも分散したようで、筆者が子どものころよく参拝していた岡山の吉備津神社は平年の10分の1の参拝者だったようです。

この記事を書いたプロ

片島由賀

逆風を追い風に変える弁護のプロ

片島由賀(勁草法律事務所)

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