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  1. 遺留分侵害目的の民事信託は無効になる?これまでの議論とここ最近の裁判例での判断
片島由賀

逆風を追い風に変える弁護のプロ

片島由賀(かたしまゆか)

勁草法律事務所

コラム

遺留分侵害目的の民事信託は無効になる?これまでの議論とここ最近の裁判例での判断

2019年4月14日 公開 / 2019年4月20日更新

テーマ:相続

はじめに

 ここ数年,新しい財産管理の仕方として「民事信託」というものが一部団体の商標登録されたものも含めて話に聞くところです。民事信託は,信託銀行等業務として行う上での免許がないとできないのとは異なり,業務としてではなく他の人の財産管理を行う一つの形態です。面倒な話までは触れませんが,財産を一定の目的のもと・特定の誰かのために権利を管理者に移転させるものです。

 ここ最近は様々な専門家の方などがこうした事柄を定めた契約書作成サービスを提供しているようです。管理する方を監督する方をきちんと確保しておくことも問題防止のためには重要となってきます。

遺留分とは?遺留分は「信託」でも問題になる?


 まず,信託と10年以上前までは一般には使いにくい制度(ビジネススキーム上用いられているケースは多々ありました)とされていましたが,制度変更により「身近」な制度として活用されています。

 問題は,「遺留分」との関係でなぜ問題が起こるかです。そもそも,遺留分とは亡くなった方の配偶者や子供に一定の生活保障をさせるために遺産(亡くなる前に生前贈与したものも含まれる可能性はあります)を一定程度確保するための制度です。遺言を使ったとしても,ここに大きな変更を加えることはできません。もちろん,対策はありえますが,遺言を使って遺留分相当額を渡さないというのは例外的な制度活用を使わない限りはありません。

 「信託」が遺留分と関係を持ってくるのは,「信託」を使った相続スキームによって,実際上「遺留分」を確保できない事態が生じるのではないかという話があるためです。ちなみに,昨年秋に裁判所の判断(争点はたくさんありますが,信託契約の有効性の関係でいえば遺留分逃れ目的だから無効としています)があったケースは簡単に言えば次のようなものです。

 亡くなったAさんには,子供が3人いました。末期がんの宣告を受けたのちほどなくして亡くなりましたが,亡くなる13日前にある士業の方などから亡くなることで贈与の効力が生じる契約をしていました。それは子供の一人(Aさんと同居し今後家を引き継いでほしいとされていた方であるBさん)と他にもう一人の子供Cさんに財産を渡すというものです。これとは別に

・Aさんは自宅を含む不動産と金銭をBさんに管理をさせる

・管理をしたうえでの利益はAさんの生前はAさんが受け,Aさんが亡くなった後は子供3人に(Bさん4/6・Cさん1/6・Dさん1/6)が利益を受ける権利を与える。B・C・Dの3人が亡くなると全てBさんの子供が引き継ぐという内容です。

・利益を受ける権利は売却できるが,金額は不動産の固定資産税評価額で計算する

・利益を受ける方の意思決定はCさんが行う

・管理を任せる財産の大半は土地建物であった。



等の内容でした。他に遺言なども存在し,Cさんが遺留分を確保できない内容になる可能性があったために,Cさんがこうした信託契約が無効(遺留分侵害の請求も別途しています)等を主張して裁判を起こしたものです。


 まず,信託を使えば遺留分の問題がなくなるのかという問題があります。これは見解脳対立がありましたが,少なくともこの裁判例での判断では問題になるという判断がなされています。問題にはならないとする見解の理屈は①信託という特別な制度では一般に問題となる遺留分の話は問題にならない②信託に類似する生命保険を活用した場合には遺留分の問題が出ないのだから同じように考えるべき,といった点が根拠とされています。しかし,遺留分の例外制度の限定は相当厳格である上に,生命保険では完全に受取人の固有財産とされているのに対し信託ではそのようには考えられていませんから,この考え方の採用は難しいのではないかと思われます。

とはいえ,どこの部分が遺留分侵害の点で問題になるかは複雑な話もありますが,ここでは省略しておきます。



最近の裁判例ではなぜ無効になったのでしょうか?



 結論から言えば,信託内容を決める際に土地建物の賃貸による収益が予定されていたとは言えず,名目上はB・C・Dの全員に利益を得る地位を与えているけれども,Dさんには利益が来ないことが十分予測されるものであったからというものです。もっと端的に言えば,Dさんの利益は名目上のものとなり,売却をしようとしてもその金額が抑えられる(時価よりも固定資産税評価額は低くなる)ために,結局は遺留分に相当する利益を得られないことを想定していたからとされています。



 ここでの争点は,土地建物が管理を任せる財産の大半であることを前提に,賃貸による収益を図る性質のものであったかという話です。Bさん側は予定があった旨を証拠で出してはいるものの具体的なものとは言えないということなどを持って言い分を認められていません。

 こうした跡継ぎ型のケースでは,Aさんと同居をしていたBさん以外に実家などが多くを占める不動産を使うことは予定されていませんから,賃貸収益がないと他の方の利益は実際上あまり考えられないことになります。他の方への賃貸が難しいのであれば,実際の利用ができるように内容を工夫する(そもそも,こうした事ができるのかという話はあります・具体的な賃貸収益計画を考える・そもそも遺留分に相当する金額を別の対策で対応するといったことを行えば防げた話にはなったのではないかと思われます。



 今後法律の改正によって遺留分の制度については,これまで審議されたということでの請求をした場合には共同所有状態を原則としていたところから,お金での清算を原則とする形になります。こうした場合には,そもそもこうした信託契約の内容にする必要があるのかという点は出てきます。別に金銭清算の対応をシンプルにしておけば,跡継ぎ以外の方が不動産を取得できないように回りくどい仕組みを考える必要はないのではないかというのがここでの話です。

 今回の話では,遺留分を侵害する場合に清算を考えるのが管理を任された財産なのか・利益を受ける権利なのか(裁判所はこちらであると判断)等の問題には触れません。理由はこのケースは争点が多く,今回の話で全て取り上げるのが難しいためです。相続対策をどのようにしていくのか,どのようなアドバイスがいいのかはよく検討していく必要があるでしょう。


縮景園の山吹の花
写真は縮景園の山吹です。桃,梅,桜の花も終わり,そろそろツツジなどが咲き始めています。また違った花々が咲いてきて賑わいを見せてきています。

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相続関係の民法改正案について(その1・配偶者居住権)
相続関係の民法改正案について(その2・相続人以外の人の貢献でも寄与に応じた請求が可能に

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