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片島由賀

逆風を追い風に変える弁護のプロ

片島由賀(かたしまゆか)

勁草法律事務所

コラム

残業代の先払いのつもりが全く払っていないことに。そんな状況を防ぐ「固定残業代」の注意点とは。

労務問題

2018年9月2日 / 2018年10月20日更新

 基本給に埋め込む形・基本給とは別に手当として支払う形など,時間外の勤務がある程度予測される業務を営む事業では,残業代を先払いする形があろうかと思われます。
 これまで,こうした「固定残業代」がそもそも残業代の先払いとして有効かどうか・有効だとしてもそれで全ての残業代を支払ったといえるかどうかをめぐる裁判例が多数出てきました。裏返せばそれだけトラブルの多いタイプの話といえるでしょう。
 ごく最近調剤薬局に勤務する方が残業代請求をしたケースで,有効な残業代の支払いとは言えないという高等裁判所の判断を覆した最高裁判所の判断が出ましたので,これまでの裁判例の傾向も含め解説します。

「固定残業代」が有効か無効かの違いは?


 固定残業代が有効かどうかは極めて重要です。理由は無効となるとそもそも残業代を全く支払ったことにならないために,残業があった場合の残業代を全て一から支払わないといけなくなります。
 そのうえ,残業代を計算する上での給料に,先払いのつもりだった手当等をプラスして計算をする必要があります。つまり,手当等がなかった時よりも割高に残業代の計算がされることになります。そのため,残業代の先払いをするうえでは無効にならないような制度設計と運用をしていく必要があります。
 ちなみに,この制度の導入目的が時間管理の面倒さや事務の煩雑さをなくすというのは誤解を招く話です。後でも触れますが,いくら先払いをしても想定よりも残業が出てくれば追加支払いが必要となります。そのため,結局時間管理は必要です。先払いをしておくことで想定の範囲内であれば追加の支払いは不要ですから,この面では事務処理の煩雑さはなくなります。

「固定残業代」が有効となるようにするには?

 ここ数年「固定残業代」を巡って,いくつか最高裁判所の判断が出ており,そこで有効となるために必要な事柄が示されています。

① 制度と運用の注意点
 まず,残業代の先払いなのですから,どの程度の時間の残業に対してどの程度のお金が残業代になるかがはっきりしていないといけません。ここがはっきりしていないとそもそも話になりません。
 次に,一定の残業時間を予定しての先払いですから,それ以上残業をした場合は追加で支払う必要があります。ここは制度を作るだけでなく運用上も対応していく必要があります。

 それでは,どの段階からこうした制度設計をしていくかという点ですが,トラブル防止のためには採用段階からはっきりとさせていく必要があります。法律改正で,今年の1月から求人票の記載には今述べた事柄を含めて明示が必要となっています。トラブル防止という意味では,採用時に説明しておく・採用条件通知書にはっきりと書いておくことが必要です。採用条件通知書に説明を受けたことの署名などを求めるケースがありますが,この場合は契約書として機能する点もよく把握しておく必要があります。
 
 次に採用後ですが,採用時の話とも関わりますが,契約書あるいは就業規則で手当てか基本給組み込みかはともかく,固定残業代の制度があること・どこまでのお金が・どこまでの残業に対する支払いか,はっきりさせておく必要があります。そのうえで,可能であれば,毎月の給与明細などで残業時間や残業代の追加清算の話を記載しておくことが安全な制度設計といえます。また,運用としても問題がないところといえるでしょう。
 また,運用面では実際に想定よりも残業が大きくなった場合には清算(つまり,追加払い)をできるようにしておく必要があります。ここをはっきりさせるためには,給与明細などに実際の残業時間と想定残業時間を記載しておくなどした方がいいでしょう。

② 固定残業代の金額面に問題はあるの?
 場合によって,基本給の金額よりも固定残業代の金額の方が大きいケースはありえます。こうした場合には相当程度長い残業時間が想定されています。これからは法律改正によって残業時間の罰則付きの上限規制ができるところではありますが,長時間の残業抑制のためこうした制度が許されないかは問題とはなりえます。
 結論から言えば,原則は許されます。ただし,今後罰則付きの規制が設けられますので,そこを超えた場合には罰則による会社へのダメージがあります。あくまでも残業代という形の割増給料は,長時間残業を抑制させようとする意味合いとともに,残業をした場合にその部分を補償する意味合いがあります。この補償の意味合いはきっちり残業した場合にはその分を補てんするものであるからです。罰則がこれまでなかったのに対し,今後も補償を受けられることへの影響があるかどうかは問題になります。
 あとで触れますが,裁判所の最近の判断傾向では先ほどの要素を重視するところですから,罰則付きだから割増部分の補償がないというのはおかしいので,原則は変わらないものと思われます。
 そのため,①の前提を満たしたものであれば,金額面での問題は基本的にないといえるでしょう。

最近の裁判所の判断傾向は?

 最近の裁判所の判断でもこうした傾向が鮮明になってきています。
① 医師の年棒制
 昨年出された判断では,医師の年棒制の中に残業代部分が含まれているか,問題になったケースがありました。そのなかでは,どこまでの残業時間への残業代が含まれているか・残業代部分と基本部分が分けられているかが問題となっていました。医師やコンサルタントなど高額給料を貰っている方は,残業分も含まれているという判断の傾向をひっくり返して,残業代部分と基本給部分の判別が必要と判断しています。

② 調剤薬局勤務の薬剤師(最新の最高裁の判断)
 また,ごく最近出された判断では次のようになっています。
 問題となったのは調剤薬局で勤務する薬剤師の方が,未払い残業代などを請求したケースです。簡単に事実関係を整理しますと,基本給以外に業務手当が設けられていました。業務手当は残業代先払い部分でした。そのことは雇用契約書や採用条件通知書・就業規則でも書かれていて,月30時間分の残業代であることや実際の残業が月30時間を下回っても支払うこと・上回った場合には追加の支払いがあることが書かれていました。
 会社側による勤務時間の管理はタイムカードで行っていましたが,出勤と退勤のみの管理で休憩時間中の仕事などは管理されていませんでした。
 このケースで,高等裁判所は
・従業員が,残業時間が想定を超えていたかすべて把握できるようにする必要がある
⇒このケースでは休憩時間中の仕事時間は管理されていないので把がは難しい
・長時間勤務をもたらさない形での手当て設定である必要がある
ことが,固定残業代が有効である前提と述べて,手当は残業代の支払いにならないと判断しています。
 これに対して最高裁判所判例は,
・就業規則・契約書・採用条件通知書をベースに,会社から従業員への説明内容等も踏まえて残業代として機能しているか
・高等裁判所の判断で述べる点は残業代の先払いかを考えるうえで大きなポイントとなるものではない
と述べています。

 こうした点からも,先ほど述べた制度の設計や運用の話は,裁判例を踏まえた話として固定残業代を考えるうえで重要になってくるといえるでしょう。


広島駅前・コスモス
先月に行きました縮景園の百日紅。百日紅は割とあちこちに咲いているのを見かけます。儚そうな佇まいではありますが、意外と長く楽しめる花です。

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「働き方改革」関連法律が成立しました⑴
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