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鈴木樹雄

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鈴木樹雄(すずきたつお) / 税理士

税理士法人ヤマト(税務業務)、(株)ヤマトシェアリング(コンサルティング業務)

コラム

相続開始後でも実行可能な3つの相続税の節税対策

2021年7月19日

テーマ:相続対策

コラムカテゴリ:お金・保険

コラムキーワード: 相続税相続対策相続問題

 相続税の節税対策は、生前に行うのが定石です。王道は年間110万円までの非課税枠を活用した「暦年贈与」配偶者,子供,孫などまで贈与する人の対象を拡げ長期間に渡って行うほど、効果があります。実行している方は多いことでしょう。生命保険金の法定相続人一人当たり500万円の非課税枠の活用もよく知られている手法です。生命保険金は保険金受取人固有の財産となり、遺産分割協議の対象外ですので、預貯金のように遺産分割協議完了まで凍結されることもなく、使い勝手がよいです。

 マンションを購入して賃貸することを実行している資産家の方も多いでしょう。現預金を不動産に組み替え賃貸すると5割以上の評価減となります。これらの節税対策は被相続人の生前、かつ、被相続人が法的意思能力を有している時のものであり、相続開始後には実行できません。

相続開始後だと何も打つ手はないのかと言われれば、手段はあります。本日は、相続開始後でも実行可能な3つの相続税の節税対策をお伝えします。

笑顔の高齢夫婦

相続開始後でも実行可能な3つの相続税の節税対策


 相続開始後は贈与による節税対策は取れませんので、遺産分割の仕方によって、納付する相続税額に差が生じます。遺産取得者によって相続税額が異なる「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」「配偶者居住権」の活用ポイントをご紹介します。

一つ目の相続税の節税対策


配偶者の税額軽減の概要


 配偶者の取得した財産の内、1億6千万円と法定相続分のどちらか大きい金額に対応する相続税は減額されます。配偶者の老後の生活保障を考慮した制度です。夫婦のどちらかが先に亡くなった一次相続で「配偶者の税額軽減」を活用すると、相続税が軽減できます。全ての遺産を配偶者が取得した場合には、納付すべき相続税額がないことも珍しくありません。

 この制度の活用において気を付けるべきことは、一次相続で多額の遺産を取得した配偶者が亡くなる二次相続の時に、「配偶者の税額軽減」を使えず、さらに、600万円の基礎控除額が減少するため、納付する相続税額が多額になりがちなことです。

活用事例・・・相続税の計算プロセスは省略


 85歳で亡くなった被相続人の遺産は1億6千万円。相続人は、83歳の妻と55歳の長女と52歳の次女。妻は両親の相続により資産を1億円所有。妻は本人の年金と夫の遺族年金支給額の範囲内で生活しているので、妻の死亡時まで妻の資産の増減はない。夫の相続後、妻は認知症を発症したため、生前贈与対策を実行できず。妻は90歳で死亡。一次相続の相続人は3名であり基礎控除額は4千8百万円、二次相続の相続人は娘二人で基礎控除額は4千2百万円。

 <一次相続で妻が遺産の全てを取得した場合>・・・二次相続の遺産2億6千万円
 一次相続の相続税額0円。二次相続の相続税額53,200,000円。
 相続税の合計額53,200,000円。

 <一次相続は法定相続分で相続した場合>・・・二次相続の遺産1億8千万円
 一次相続の相続税額7,400,000円。二次相続の相続税額27,400,000円。
 相続税の合計額34,800,000円。

 <一次相続は娘二人で相続した場合>・・・二次相続の遺産1億円
 一次相続の相続税額17,200,000円。二次相続の相続税額7,700,000円。
 相続税の合計額24,900,000円。

不動産で相続税

活用のポイント


 活用事例では一次相続で娘二人が遺産の全てを取得した場合が相続税の合計額が少なくなりました。実際の活用に際しては、配偶者の資産状況、ライフサイクルコスト、健康状態、配偶者の生前の相続対策などを勘案し、シミュレーションを重ね一次相続の遺産分割方法を決めるとよいでしょう。

二つ目の相続税の節税対策


小規模宅地等の特例の概要


 被相続人の自宅や事業用の土地などを相続して多額の相続税を納めるために土地を売却しなくてもよいように、所定の要件を満たす相続人が所定の土地を相続した場合の相続税を減額する制度です。居住用の土地と賃貸を含む事業用の土地が対象となります。居住用や賃貸以外の事業用の土地であれば、一定面積まで、80%の評価減が適用されるので、節税効果が高いのです。

 80%の評価減が適用できるのは、居住用の土地で地籍330㎡以内、貸付事業を除く事業用の土地で地籍400㎡以内です。貸付事業用の土地は、地積測量200㎡以内に50%の評価減が適用できます。対象となる土地や取得者の要件の改正がよく行われていますので、活用に際しては、最新の情報が必要です。

活用事例


 夫の死後独りで暮らしていた母が亡くなりました。相続人は自己所有のマンションに住む長男と夫名義の戸建住宅に住む長女、そして、5年前から公団の賃貸住宅に住んでいる次男の3名です。母が暮らしていた実家は地方都市の住宅街にあり、広さは330㎡、相続税評価額は5千万円でした。実家の家屋は1千万円、預貯金など実家以外の遺産の評価額は6千万円となりました。

 相続税評価額120,000,000円の遺産を相続人3名が法定相続分で分けた場合の相続税の合計額は9,300,000円でした。「自己又は自己の配偶者の持ち家に住んでいない」などの小規模宅地等の特例の要件を満たす次男が実家を相続した場合の相続税の合計額は2,199,900円と法定相続分で分割した場合よりも7,100,100円少なく、次男が実家の不動産を取得することにしました。

 税理士の業界で「家なき子特例」と呼ばれている被相続人と同居していなかった相続人でも「持ち家に住んでいない」などの要件を満たせば活用できるものです。

活用のポイント


 小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額を50%、又は、80%減額できるものであり、節税効果は高くなります。また、相続税は超過累進税率が適用されており、土地の評価額を小規模宅地等の特例活用により減額する効果は、この特例の対象となる土地の取得者だけではなく、相続人全員に節税効果があります。対象となる土地や取得者の要件は、複雑な場合もありますし、税務署は必ずチェックしますので、税理士に申告を依頼した方がよいでしょう。

三つ目の相続税の節税対策


笑顔の高齢女性

配偶者居住権の概要


 亡くなった方の財産が主に自宅であり、その自宅に配偶者が住んでいた場合、配偶者が自宅に住み続けられることを支援するために創設された制度です。配偶者が自宅の所有権を相続せずに、長男が相続した場合でも、引き続きその自宅に住み続ける権利だけは認めてあげましょうというもので、2020年4月から始まった新しい制度となります。

 不動産の権利を住む権利である「配偶者居住権」と売却等が出来る権利である「所有権」とに分けると分かり易いです。

活用事例


 相続人は被相続人と自宅で一緒に暮らしていた妻、夫の持ち家に住んでいる長女、自己の持ち家に住んでいる長男の3名であり、長女も長男も実家は不要であり、かつ、妻の生存中はその実家を売却する必要性はありません。実家の建物の相続税評価額5百万円であり、配偶者居住権の評価額も5百万円(税務上の耐用年数を超過しており計算上同一評価となった)となりました。建物所有権(5百万円―5百万円=0円)は長女が取得し、配偶者は法定相続分以下の遺産を取得しました。

 5百万円の配偶者居住権を取得した配偶者の相続税額は、配偶者の税額軽減の活用により0円となり、0円の実家の建物所有権を取得しても長女の相続税額は変わりませんでした。配偶者が亡くなった場合には、配偶者居住権が消滅するので、結果的に長女は評価額5百万円の実家の建物を取得するのと同じ効果が得られました。

活用のポイント


 配偶者居住権が設定された住宅は売りたくても売れないでしょう。配偶者の死亡による配偶者居住権の消滅以外だと贈与税などの税金負担も必要となる場合があります。一方で、配偶者の年齢や他の相続人の資産状況により、配偶者の死亡による権利消滅まで、特に問題の見込まれないケースもあります。

 配偶者や相続人の年齢、健康状態、資産状況などを勘案し、節税ありきで活用を考えない方がよいでしょう。

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