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山内崇嗣

本人主体の関わりを重視するメンタルヘルスの専門家

山内崇嗣(やまうちたかし) / ソーシャルワーカー

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コラム

規模は敢えて負わず~特に対人サービス領域に対して~

2021年11月3日

テーマ:経済

コラムカテゴリ:お金・保険

コラムキーワード: 社会福祉士セルフセラピー

時々営業の電話を頂きますが、昨日はM&Aの営業でした。福祉業界でも規模拡大を目指してM&Aを積極的に行う会社が増えていますと。また大きな会社に吸収されることで経営安定を狙う会社も増えているのだとか。
はじめに言った言葉は「申し訳ないですが、むしろ考え方は逆で、規模は負わないことが事業にとってプラスになると考えているのでやりません」でした。営業職員の方は「えっ?」と訳が分からないような反応だったのですが、「個人的にその意見に関心があるので教えてほしいです」と言われたためそれから数分持論を述べた訳です。

いまの福祉業界は規模を追っています。なぜならば薄利多売にならざるを得ない制度設計だからです。そして規模の経済が働く業界でもあるからです。例えば福祉就労と言われる就労継続支援B型と共同生活援助(グループホーム)で考えてみます。どちらが先でも良いですが、B型で始めた場合そちらに通う人が増えてきて更に利用者を安定して日中通わせたいと考えた場合、自分のグループホームに入った方をB型に通わせる話を事前にした上で入ってもらえれば安定して確保出来、さらにグループホームも埋まるため二重に潤う計算になります。本来は社会福祉法や障害者総合支援法では多様なサービスから本人が選べるようにすること、つまり囲い込みは控えるように条文に書かれていますが、「本人が選んだんだ」とした名目上すれば問題ないと解釈している事業所が多いのではないでしょうか(本来は多様な選択肢が準備された上で選んだことを『選ぶ』というのですが…)。
このように規模を負うことは運営上多大なメリットを受けることになり、営利目的の会社がそれを選択しない理由はありません。営利目的の会社経営者であれば自身の判断は誤っていると言えます。ではなぜ規模を追わないのでしょうか。

1つは福祉業界が対人サービスだからです。対人サービスとはモノが相手ではなくヒトが相手であることを意味します。自動車であれば自動車を作って売るために生産計画はじめ行程通り進めることが出来ますが、人が相手ですと先を読むことは難しい。福祉の目的とは本人が少しでも望む生活に近づいていくため、社会で生きるためにスキルを学びセルフケア(自分で出来なかったことが出来るようになったり出来ないことを誰に聞けば良いのか分かる、自立できるための技術)を高めていくことに他なりません。そうした目的に営利目的では達成できません。ヒトではなくあくまでもカネ(利益)が目的だからです。

2つ目が経営者の理念や実践が行き届かなくなるからです。分かりやすい例は飲食店でしょうか。個人店で美味しい店があったとします。それが儲かるからといって2号店3号店を作る。だんだん味が変わっていきます。同じ分量であってもその人の感性によって僅かなタイミングが違う、それが味につながってくる。そのようなことからオリジナルの客が離れていき、経営者も経営に追われるようになって結果1号店の味も落ち潰れていく。このような話が福祉にも当てはまると感じています。創業者の理念と実践が優れており、とても良い形で出来ていたにも関わらず、だんだんその理念を知らない、直接薫陶を受けることなく現場で働く人が増えれば創業者の色が薄くなります。そして以前とは別物のようなサービスとなる。

3つ目はこれが一番大きいかもしれませんが、面白くないと思うからです。これは非常に主観的です。何が面白くないかと言えば、おカネに追われて人の話がロクに聞けなくなることが面白くないのです。対人サービスの醍醐味は何かといえば、日ごろ関わる中で少しずつその人が自分で人生を進めていくことが出来るようになり、言葉が変わり、行動が変わり、表情が変わり周りが変わっていく。そうした機微に触れることでサポートしていた側が元気をもらいます。

実はこの3つを話している時間が無かったため、営業の方にこの話はしませんでした。おそらくこの3つの意味がよく分かる方であれば規模を追わないことが社会的に見て良いのではなく個人的に見て良い、その気持ちが分かるので無いかなと。どの業界でもそうですが、一番は自分自身で創業し、実現したいことを実現できることです。創業者=労働者が望ましい。そう思っています。それでも生き残っていけないということも起きます。だからこそM&Aが積極的に行われるのではないか。その気持ち分からんでも無いです。実際の正解は分かりません。この機会に少し皆さんも考えて頂けると嬉しいなと思います。

最後に付言しておきますと、現在規模を追わない事業を行っている側であったとしても
・大規模な事業体(医療機関、大きな社会福祉法人等)から恩恵を間違いなく受けていること
・名古屋市の小さな事業体でも存続していくことが出来る助成はじめ仕組みがキチンとなされていること
への恩恵を受けている。それは紛れもない事実です。だからこそ、少しずつ上記で述べた仕組み(操業しても十分に運営していける体制を公的機関が保障すること)にシフトしていくことが肝要だと考えています。

この記事を書いたプロ

山内崇嗣

本人主体の関わりを重視するメンタルヘルスの専門家

山内崇嗣(一般社団法人やまのくち農舎)

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