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中村正彦

遺産相続に関するトラブルを法的に解決する弁護士

中村正彦(なかむらまさひこ) / 弁護士

弁護士法人 松尾・中村・上法律事務所

コラム

子供を持たないご夫婦には早期の遺言書作成をお勧めします-自筆証書遺言書保管制度-

2021年2月24日

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 遺言書 作成遺言書 書き方

お子さんがいないご夫婦の場合、早期の遺言書作成が安心です

 私たち弁護士のところには、「遺言書を作成したい」というご相談やご依頼もよく寄せられますが、ご相談に来られるのは、老年期の方に限られません。
 まだ壮健な中年期のご夫婦から、「早めに遺言書を作成しておきたい」という相談を受けることもあります。一見すると、「遺言を書かれるには、まだまだ早いのでは」と感じるのですが、よくよくご相談の趣旨をうかがうと、「自分たちには子供がいないので、もし万一のことがあったときに、連れ合いが遺産相続問題で困らないようにしておきたい」という思いから、ご相談にいらっしゃるのです。
 といいますのも、子供がいない夫婦の場合、夫婦の一方が亡くなったとき、遺言をしていないと、残された配偶者が、遺産の全てをそのまま相続できないことがあるからです。

 具体的に述べますと、民法の定めでは、被相続人(亡くなって遺産を遺した人)に配偶者がいる場合、その配偶者は常に相続人となるのですが、配偶者が全額相続して終了とはならず、配偶者以外の人が、次の順序と法定相続分(相続割合)で、配偶者とともに相続人となります(民法887条、889条、890条、900条、901条)。

第1順位 被相続人の子供(実子のみならず、養子も含みます)

 相続人となるべき子供が、被相続人より先に死亡しているときは、その子供の直系卑属(被相続人から見た孫・ひ孫)のうち、被相続人により近い世代が相続人となります(代襲相続)。
 法定相続分は、配偶者が2分の1、子供が2分の1です(2人以上のときは2分の1を子供等の人数で等分します)。

第2順位 被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)

 第1順位の相続人がいない場合、相続の順位が繰り下がって、第2順位の人が相続人になります(第1順位の相続人がいる場合は第2順位の人は相続人とはなりません)。
 父母がいずれも被相続人より先に死亡しているときは、祖父母が相続人となります(父母のいずれか1人でも存命の場合、祖父母は相続人となりません)。
 法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。(2人以上のときは3分の1を父母等の人数で等分します)。

第3順位 被相続人の兄弟姉妹

 第1順位の相続人も第2順位の相続人もいない場合、さらに相続の順位が繰り下がって、第3順位の人が相続人になります(第1順位・第2順位いずれかの相続人がいる場合は第3順位の人は相続人になりません)。
 相続人となるべき兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その子供が相続人となります(代襲相続)。すなわち、被相続人から見た甥姪まで相続人が広がることがあるわけです(なお、兄弟姉妹の代襲相続は、第1順位の相続人と異なり、1代限りであるため、「甥姪の子供」まで相続人になることはありません。また、被相続人の従兄弟も、相続人になることはありませんから、相続人の範囲が甥姪以上に拡大することはありません)。
 法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹等が4分の1です(2人以上のときは4分の1を兄弟姉妹等の人数で等分します)。

 以上のとおり、お子さんがいない夫婦で、例えば、中年期の夫が急死した場合、遺された妻は、「世帯」で見れば1人ですが、相続の場面では、第2順位または第3順位の相続人が存在する可能性が高く、この場合、単独で相続することはできないのです。
 とりわけ、第3順位である兄弟姉妹等まで繰り下がった場合に、亡夫の遺した遺産の中に、夫の両親から相続した財産が多く含まれるときには、亡夫の兄弟姉妹等は、「もともと我が●●家の財産だったのものが、嫁に全部相続され、ゆくゆくは嫁の親族(兄弟姉妹や甥姪)のものになっていくのは納得できない」という思いから、妻が全ての遺産を相続するという内容の遺産分割協議には断固として応じないということが十分に考えられます。
 しかし、遺された妻としては、老後に頼れる子供がいない中で、まだまだ永い人生において、4分の1とはいえ、遺産が目減りするのは、大いに不安です。
 上記の例では、夫が先に亡くなる場合を書きましたが、当然、順番が逆になることもありえます。
 そのような自分たちの万一の場合の憂いを予め解消しておくために、まだ中年期のご夫婦が「自分が先に死んだら、配偶者に全財産を相続させる」という内容の遺言書を互いに作っておこうとされるのも、非常に合理的な考えだと思います。

どのような遺言書を作成すればよいか-自筆証書遺言の勧め-

 私たちが上記のようなご相談を受けたときは、ご希望のような「自分が先に死んだら、配偶者に全財産を相続させる」という遺言書を、ご夫婦それぞれが、一番シンプルな内容による書き方で、自筆証書遺言という形で作成しておかれることをお勧めしています。
 遺言書の作成方法としては、通常の場合、自分で作成する「自筆証書遺言」という形式と、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」という形式の、2つのやり方があります。
 その両方の特徴は、以前にコラムで説明させてもらいましたので、ご参照ください(→正しい遺言書の作成方法)。

  ご高齢の方が遺言をされる場合で、その死後の相続人間での遺産争いが予想できるようなときや、それなりに複雑な内容の遺言を遺されるときには、公正証書による遺言をお勧めするのが一般的です。公正証書遺言の方が、遺言するだけの判断能力がなかったのではないかとか、偽造ではないのか等の紛争が事後に生じにくく、また、自筆証書で複雑な内容の遺言を作成しようとされると、遺言条項の記載の仕方や、遺言書作成の形式要件に不備が生じたりして、遺言の有効性や解釈に疑義が生じる結果となるリスクもあるからです。
 しかし、まだまだお元気な中年世代の方が、万々一に備えて、配偶者のために、シンプルな内容の遺言書を一応作っておこうというような場合は、わざわざ費用と手間をかけて公正証書遺言まで作成する必要性は高くないことから、自筆証書遺言で十分だと私は考えています(遺言書は作り直すことができますから、老齢になって、本格的な遺言書を作り直すときに、公正証書遺言の形にすることも可能です)。

 私が雛型としてご提示するのは次のようなものです。

**************************************

                   遺言書

私山田太郎は、下記のとおり遺言します。

 私の所有する不動産、預貯金、現金、有価証券、動産類その他一切の財産を、私の妻
山田花子(昭和○○年○○月○○日生)に相続させます。
                          以上
令和○年○月○日

住所  大阪市・・・・丁目・・番・・号・・・○○号室
         氏名      山 田 太 郎  印

**************************************

 有効な遺言とするために絶対に必要なのは、「全文を自分で手書きする」(パソコンで打ってはいけません。ただし、別紙で財産目録を作成する場合、財産目録についてはパソコンで作成することが可能です。この場合、各頁に署名押印することが必要になります)、「日付を書く」、「署名押印をする」という点です。印鑑は、認め印でも構いません。
 加筆消除その他の変更部分については、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印する必要がありますが、上記のような短い遺言の場合は、記載ミスを訂正したり、内容の手直しをするのであれば、一から作り直した方が簡便ですし、安全でしょう。
 作成されましたら、封筒に入れて、表面に手書きで「遺言書」と書き、裏面には日付記載と署名押印をして、封印(封筒を糊付けし、封の部分に押印する)をすればそれで完成です。

他の法定相続人の遺留分の関係

 上記のような配偶者に全てを相続させるという内容の遺言をした場合の、他の法定相続人の遺留分との関係についても、ご説明しておきます。
 遺留分とは、被相続人がその遺産のうちで一定の相続人のためにどうしても残さなければならない財産のことです。その概要は、以前にコラムで説明させてもらいましたので、ご参照ください(→遺留分の基本)。

 第3順位の相続人である兄弟姉妹等が相続人となる場合は、兄弟姉妹等には遺留分はありませんから、上記のような遺言書を作成することで、兄弟姉妹等には法定相続は生じず、遺留分の権利もないために、遺された配偶者が全遺産を単独相続できるので、安心です。
 ただ、上記のような遺言書を作成していても、遺言をした方が亡くなった時点で、被相続人の直系尊属(父母など)が存命で、配偶者とともに共同相続人になる場合には、直系尊属にも6分の1の割合の遺留分の権利が生じます。
 そのため、その直系尊属から遺留分の請求を受けた場合は、遺された配偶者の方は、それに応じる必要がありますから、この場合には遺産の全額を単独相続することはできません。ただ、亡くなる順序がこのような形になるケースは、そう多くはないでしょう。

令和2年7月10日から始まった「自筆証書遺言書保管制度」

 前述のように、お子さんがいない比較的若いご夫婦から、万一のための遺言書作成のご相談を受けた場合、私は、自筆証書遺言をお勧めするのですが、自筆証書遺言の弱点として、「紛失や焼失、第三者による隠匿などのリスクがある」、「相続開始後、裁判所の検認の手続を受ける必要がある」ということがありました。
 そこで、そういった弱点を補う制度が創設されました。それが「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年7月6日成立、同月13日公布)により、令和2年7月10日からスタートした「自筆証書遺言書保管制度」です。
 これは、法務局が、自筆証書遺言書を責任をもって保管してくれる制度です。
 同法の趣旨は、「高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止する観点から、法務局において自筆証書による遺言書を保管する制度を新たに設けようとするもの」とされており、同法による遺言書保管制度の概要は、下記のようなものです。

① 遺言書の保管の申請
 遺言者は、法務局の遺言書保管官に対し、自筆証書による遺言書の保管の申請をすることができる。遺言者は、いつでも保管の申請を撤回でき、遺言書の閲覧をすることができる。

② 遺言書の保管・情報の管理
 遺言書保管官は、遺言書を遺言書保管所(法務局)において保管するとともに、その画像情報を記録するなどして遺言書に係る情報を管理する。
 遺言書の保管期間は、次のとおりです。

 ・遺言書:遺言者の死亡の日(※)から50年
 ・遺言書に係る情報:遺言者の死亡の日(※)から150年
   ※遺言者の生死が明らかでない場合には、遺言者の出生の日から起算して120年を経過した日

③ 遺言者の死亡後の手続(遺言書情報証明書の請求等)
 遺言者の死亡後には、相続人等は、遺言書情報証明書の交付請求、遺言書の閲覧をすることができる。その際、遺言書保管官は、他の相続人等に遺言書を保管している旨を通知する。

④ 遺言書の検認手続の不要
 遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所における検認が不要。

 この制度を利用すると、遺言書の紛失や隠匿等が確実に防止できますし、全国一律の仕組みで管理されますので、遺言者が亡くなった後、相続人等が遺言書の存在を把握することも容易になります。
 遺言の内容は誰にも言わずに、自筆証書遺言を作成して法務局に預けておくことも可能であり、自筆証書遺言書を自宅等で保管しておくのと比べても、遺言内容が漏れないという長所もあります(ただし、亡くなるまでに、「自分は遺言書を法務局に預けているからよろしく」ということは遺産を相続してもらう人には伝えておかないと、遺言書の存在に気付いてもらえないということは起こりえます)。
 手数料も安価であり、遺言書の保管の申請は、1件につき3900円です。費用的に非常に使いやすく、その結果として、自筆証書遺言の作成もしやすい環境になったといえます。
 今後、自筆証書遺言書を作成される場合、あるいは既に自筆証書遺言書を作成済みの方も、この保管制度を利用しない手はないのではないでしょうか。
 国としては、このような制度により、遺言者の最終意思の実現を補助することで、相続手続の円滑化を図り、放置されがちになっていることが社会問題化している不動産の相続登記の促進にも生かしたいと考えているようです。

                           弁護士 中村正彦

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